観察90:条件
「……なんだ? ここ」
こころに連れられやってきた場所で、オレはつぶやく。
「どこって? どう見ても遊園地じゃない」
こころは何言っての? という感じだ。いや、確かにどこからどう見ても遊園地なんだけどさ。
「なんでここなんだよ?」
「だって、春休みに三人で来たんでしょ? あたしだけ行ってないって不公平じゃない」
「話し合いはどうした」
「まだ日は高いんだから」
そう言って、こころはオレの手をとり歩き始める。
「………まぁ、いいか」
言いたいことはいろいろある。でも、たまにはこころに付き合って遊ぶのもいいかもしれない。
「それじゃ俊行、まずはジェットコースターよ」
「本当に姉妹みたいだよな……」
オレはおかしくなって苦笑した。
「ん~~……遊んだ遊んだ」
「……本当に姉妹みたいだな」
ジェットコースター何回連続で乗ったか分からない……。
「でも、アタシはお化けは怖くないわよ?」
というか、こころに怖いものなんてあるのか?
「それより、いい加減満喫しただろ?」
「そうね。じゃ、観覧車にでも乗りましょうか」
「そうだな」
……そこで、本題だ。
「さてと……どこまで話したっけ?」
観覧車の中。こころは入ってすぐに話をきりだす。
「瑞菜の話」
「そうだったわね。瑞菜さんが雪奈に与えた影響。一つは独占欲の刺激。他には……って、とこだったわね」
「ああ。それで、お前が考える他の影響は?」
たぶんだけど、オレとこころが考えてることは同じだ。ただでさえ、オレとこころはどこか似てるし、それが雪奈の事ともなると、ほぼブレはない。
「俊行が瑞奈さんと付き合ったことで、雪奈は感じたはずよ。俊行が自分の目の前からいなくなる可能性を」
オレは、瑞菜と付き合ったからといって、雪奈の事をほったらかしにするなんてことはない。それでも、雪奈がそう感じるのは別の話だ。オレは雪奈の告白を断ったのに、瑞菜の想いを受け入れた。それは雪奈にとって、想像以上にショックだったのだろう。
「まぁ、瑞菜さんが与えた影響はたくさんあるし、言うまでもないことがほとんどだからここまでにして、次はアタシね」
「……こころの与えた影響ね」
それこそ言うまでもないな。
「オレを盲信させなくしたことだろ?」
「そういうこと。改めて冷静に海原俊行という人間を観察した。その上で雪奈はまた俊行を信頼した。これは本当に大きいわね」
……本当に言うまでもないよな。
「で? 今のオレの行動はどんな意味があるんだ? 雪奈にとって」
「分からなくなったのよ。雪奈が俊行の気持ちを。……感じれなくなったって言った方がいいかな」
「………やっぱり分かるものなのか?」
「頭では理解できなくても感じるものよ。近くにいれば」
つまりは、オレが雪奈のことを好きと言うことを。
「だから近くにいれば、雪奈は安心した。雪奈はそれだけで満足で、それ以上を心から求めなかった。芽生えた恋心が花を咲かせる気がなかった」
「……近くにいればか」
「そういうこと。条件はこれ以上ないくらいにそろったわね」
「………はぁ」
「ま、恋愛なんて不確定な要素がたくさんあるしね。雪奈が本当に俊行の事好きになるかは知らないけど」
ただ、とこころは言い、
「少なくとも、あの子が俊行を何よりも求めてるのは確かよ」
「……そうだな」
あの日から、雪奈はずっとオレを家族として求めてきた。それが今、想い人としても求めるかもしれないというだけだ。
「あら? もう下につくみたいね。景色見てないからもう一回乗るわよ?」
「はいはい。付き合いますよ」
オレも、景色を見ながら考えたいからな。
景色はあかね色に染まり、空は夕闇に包まれていくなか、オレは初めて雪奈に会った時の事を思い出していた。
俊行が雪奈の告白に応えなかったのは、幸せにする自信がなかったのと、雪奈の想いが恋愛とは言えないものだったから。さて、それが恋になったとしたら……?