観察8:幼馴染
「すみませ〜ん! 誰かいますか〜?」
離任式も無事に終わった日の翌日。オレと雪奈は雪奈が適当に借りてきたDVDをだらだらと観賞していた。
「?……お兄ちゃん。誰か来たね?」
そこへチャイムのあとに、女の声が聞こえてきた。声からして隣のおばちゃんが回覧板を回しにきたわけじゃないらしい。若い人の声だ。というか、オレん家の隣、誰も住んでないし。片方は空家で、もう片方は海へと続く道があるだけだ。
「誰だろうな?」
セールスじゃなければいいけど。
「さぁ……?」
「お前の友達なわけもないしな……」
「ひどく悲しいこと当然のように言わないでね?」
もちろんオレにも女の友達なんていないんだけども。
「すみませ〜ん! いないんですか〜?」
玄関の方から声が届く。やっぱり若い女の人の声だ。もしかしたらオレに一目惚れした美少女が訪ねて……ないな。うん。雪奈に友達100人いるくらいありえない。
「ひどく失礼なこと考えてない? お兄ちゃん」
「いや、ひどく悲しいこと考えてた」
「すみませ〜ん!」
「って、お兄ちゃん。早く出ないと。近所迷惑だよ?」
「近所に誰も住んでないだろうが……。まぁいいか。出てくる」
ていうか雪奈が出るという選択肢はないのかなぁ……。いや、それはいろいろまずいな。世間体というものがあるからな。
「はいはい……どちらさまですか?」
適当に考えている内に玄関につき、ドアを開けた。そこには……。
「ぁ……よかった。いたんですね」
……無駄に可愛い女の子がいた。
「……え〜と……どちらさまですか?」
年はオレと同じくらいだろうか。見た目は幼いんだが、完成された幼さというか可愛さをもってる。体型も幼い感じがして愛らしい。なにより目を引くのはその髪の長さだろうか。小さいとはいえ、腰まである髪は長いとしかいえない。
「ぁ、すみません。え〜と……今日隣に引っ越してきたんですけど……」
ただ、オレが気になったのはそういった人の目を引くような容姿以上に……。
「……あの、私たち、えっと……、……会ったことありません?」
懐かしさを感じたことだろうか。
「えっと、なんていうか、私昔はこの辺に住んでて……だからっ……」
「……名前は?」
「あっ!……言ってませんでしたっけ?」
少しだけこの子が誰なのか当たりをつけて、オレは聞く。そしてそれは当たってるんだろうなとも思って。
「春日瑞菜です」
「……っ……っくく」
なぜだかわからないけど、オレはその名前を聞いた途端笑いをこらえられなくなった。
「ん?……どうしたんですか?」
「……っ……いや、悪いな瑞菜」
久しぶりに会った幼馴染にオレは笑いながら謝る。
「っ……やっぱり……とーくんなの?」
懐かしい呼び方。心が温かくなる。
「とりあえずあがれよ。つもる話もあるだろ?」
「うん。そうする」
そう言って、瑞菜は靴を脱いで玄関をあがる。そうしてオレ達は今までのことを話あう―――
「お兄ちゃん? セールスだったの?」
―――ことはとりあえず無理そうだ。
「……お兄ちゃん、いえ、俊行さん。その女の人は誰なのかなぁ?」
なんだか雪奈が怒ってるから。笑ってるけど確実に怒ってるから。呼び方『俊行さん』になってるし。
「えっと……とーくんて妹さんいたっけ?」
とりあえずは二人に自己紹介からやらせようと思うオレだった。
ありきたりですか? ありきたりですね(自己完結)