観察87:こころの言い分
「それで? 結局は何を言いたいんだ? こころは」
無駄に長い風呂から出た後。オレの部屋でオレとこころは向き合っていた。ちなみに時刻は夜明けが近い時間だ。
「俊行が一番知ってると思うけど、今までの雪奈は恋愛というには幼くて純粋過ぎて、どこか違う好意を俊行に向けてた。……だからこそ、あの子は誰よりも本気だったんだけどね」
「そうだな。雪奈は恋愛というものに憧れてて、それでいて恋愛という感情を知らない。だから唯一好意を向けている男であるオレにその行為を重ねた」
行き過ぎたスキンシップはその為だ。
「実際にオレに向けられている感情は仲の良い兄に対してのものでしかない」
だから恥ずかしがる事もなく、スキンシップに歯止めがかかる事はない。
「……そうだよな?」
「ええ。そうだったわね」
「……じゃあ、説明してもらおうか。今のままでいったらどうなるかを」
「大した事はない一般論なんだけどね。アンタも想像はついてるでしょ?」
「なんとなくな。……それでも自分の想像と他人の想像じゃあ意味が違ってくるからな」
「そうね。じゃあ言うけど、もし俊行と雪奈がずっと二人だったら付き合ったりする事はなかったと思う。……さっきも言った通りにね。そのうちに雪奈は本当の恋愛というのを知って俊行から離れて行ったと思う」
こころの言葉に胸がしめつけられる。
「……ふぅ。それで?」
オレは大きく息を吐いて続きをうながした。
「今までに俊行と雪奈の関係を変化させるような要因がいくつかあった。……それが何かわかる?」
「……瑞菜の事か」
「一つ目はそれね。アタシや雪奈、家族のような関係以外で、俊行と仲のいい女の子。……何をもたらすと思う?」
「独占欲の刺激……嫉妬のような感情だな」
「正解。雪奈にとって、自分だけの俊行だったのが、瑞菜さんの登場で違ってしまった」
正確には嫉妬とは違うのかもしれない。心情的にはおもちゃを取られた子どもに近いだろう。でも、その感情は極めて嫉妬に近い。自分のお気に入りのおもちゃで自分以外の子どもが楽しんでいるのを見る心情を考えるとわかりやすい。
「瑞菜さんの存在がもたらしたのはそれだけじゃないけどね」
「? 他にも何かあるのか?」
「あるわね」
「なんだよ? それって」
「う〜ん……その前に……」
そう言ってこころは近づいて来て――
「ちょっ……こころ?……っ!」
―― 一瞬でオレの唇を奪った。
「もうひとラウンドしましょう?」
そのままオレは押し倒された。