観察86:それはそれ。これはこれ
「ねぇ、俊行」
「なんだよ? こころ」
夜。雪奈が居なくなる時間を見計らって帰ってきたオレはこころに話しかけられた。
「アンタが言ってたことは正しかったかもね」
「オレが言った事?」
「前に言ってたでしょ? 雪奈に恋愛なんて早いって」
「……ああ」
今もその考えは変わってないが。
「どうしたんだよ? いきなり」
「今日、雪奈に聞いたの。もしアタシが俊行と付き合ったらどうする? って」
「……それで?」
「あの子、祝福するって」
「……そうか」
ある意味は大人な対応かもしれない。だがその実は――
「結局、雪奈は俊行が傍に居ればよかったのよね」
――子ども染みた独占欲だ。
「だからね、アタシ思うわけ。アンタと雪奈はいつまでもくっつく訳がないって」
「……それでいいじゃないか」
「そうね、よかったかもね。形はどうあれ雪奈が幸せなら」
「なんだって言うんだよ?」
「これは、アンタが雪奈と距離を置かなかったらの話よ」
「? どういう意味だよ?」
「距離を置いてる今、雪奈が本当の恋愛を俊行にするかもしれないって言ってんのよ」
「………………」
こころは何を言いたいのだろうか。よくわからない。ただ……。
「……詳しく説明してくれるか?」
「クスクス。お代は高くつくわよ?」
「アイスをおごるから教えろ」
オレは聞いとくべきだと思った。
「ありがと。まぁでもその前に……」
「その前に?」
「お風呂入りましょ?」
「はぁ……こんな時間でしか入れないってのもな……」
健全な人なら普通に寝ている時間だ。
「文句言わないの。アタシだって同じなんだから」
「は? まだ入ってないのかよ?」
「別に二回入ってもよかったんだけどね」
?? こころは何を言ってるんだ?
「とにかく早く入りましょ。着替えはもう準備してあるから」
「あ、あぁ」
オレは背中を押されて脱衣室に入り、こころと一緒に服を脱ぎ始めた。
「……ちょっと待て」
「ん? どうしたのよ? 俊行」
こころがハーフカップのブラのホックに手をかけながら不思議そうな顔をする。
「……とりあえずホックから手を離せ」
「何よ? どうしたって言うの?」
何故か本当に不思議そうな顔をしながらこころは聞く。
「とりあえず聞こう。……なんだ? このどこかで見たことのある状況は?」
「家主と居候が一緒に風呂に入ろうとしている状況」
またわかりやすい状況だな。
「なんでそんな状況になってるんだ?」
「アタシがアンタと一緒に入りたいから」
また単純明快な理由だな。
「……お前、確か前は恥ずかしがってなかったか?」
オレが事故で見てしまった時。
「それはそれ。これはこれ」
「……もしかしてお前」
「そゆこと」
そう言いながらこころはホックを手慣れた感じで外す。
「……はぁ。仕方ないか」
「ほら俊行。早く脱ぎなさい? 夜の情事とふけこむわよ?」
「仕方ない………か」
一瞬、雪奈の顔が浮かんだがオレは気にせず服を脱いでいった。
どうでもいいことですが、こころのブラはフロントホックじゃありません。