観察83:チャンス
「なぁ、春日さん。どうして海原と別れたんだ?」
放課後。今日もとーくんはすぐにどこかへ行ってしまった中、永野君が話しかけてきた。ちなみにこころさんと雪奈ちゃんは家に帰った。
「あはは……いきなりどうしたの?」
「いや、少し気になっただけなんだが……」
「気になるって……どうして?」
「……海原が苦しそうだったからかな」
「……………………」
「海原は本当に春日さんの事が好きだったのに」
「……知ってるよ」
とーくんは好きでもない子と付き合ったりする人じゃない。それは相手を幸せにしないから。
「うん。知ってる。だって一番とーくんの事が分かってるのは私だもん」
だから私は好きだった。小さい頃、幼心に恋をした。そして今、変わらない彼を愛した。
(あはは……私ってば詩人だね)
でも、それが私の偽りのない気持ちだった。
「海原の事が嫌いになったのか?」
「あはは………とーくんから詳しい話は聞いてないの?」
「だいたいの話は聞いてる。でも……本当の事を言ったかどうか分からないからな。……海原も春日さんも」
あはは……私がとーくんに都合のいい言い訳をして別れたと疑ってるんだね。
「永野君はとーくんの友達なんだね」
「な、なんだよいきなり……」
「とーくんの事が大切だから、こうして私を問い詰めてるんだよね?」
「……春日さんはなんでもお見通しか」
「永野君がわかりやすいだけだけどね」
とーくんはもっとわかりやすいけど。
「それで、私がとーくんと別れた理由だよね?」
「あぁ、うん」
「好きだから」
うん………きっとそれだけ。とーくんが雪奈ちゃんと両想いなのに付き合おうとしないのと一緒。好きだから。だから一緒にいれない。自分じゃ幸せに出来ないから。
「……嘘は言ってないみたいだな」
「あはは……分かるんだ」
「俺は鋭いからな」
「あはは……鋭いのは永野君自身じゃないよね」
本当に鋭いのは……。
「……本当に春日さんはなんでもお見通しだね」
「あはは……いつか会ってみたいな」
「機会があったらだね」
機会か……。私にはチャンスがなかった。とーくんとずっと一緒になるチャンスが。ただそれだけなんだよね。
(頑張って……雪奈ちゃん)
私は唯一人チャンスのある少女に願いをたくした。変わらぬ想いを心に秘めて。