観察82:分からない理由
「うぅ……お兄ちゃんに会いたい」
「そのセリフ……何度目かしら」
だって会いたいんだもん。
「ていうか本当に雪奈って俊行の事が好きよね」
「そんなの当然だよ」
「なんでよ?」
「だって私のアイデンティティーだもん」
「……否定出来ないわね」
お兄ちゃんが好きじゃない私なんて私じゃない。
「でも……なんで? どうしてそんなに好きなの?」
お兄ちゃんが好きな理由……か。
「ん〜……どうしてだろう?」
そう言われてみるとよくわからないなぁー。
「はぁ……まぁ確かに俊行のいい所を言うのは雪奈は大変かもね」
「? どうして?」
「アタシや瑞菜さんと違って、雪奈はずっと俊行の傍に居たからね。いい所も悪い所も全部それが当然になってるのよ」
なるほど……。
「それに雪奈は友達とかほとんどいないから俊行と他の男を比べる事もないだろうからね」
「な、納得なんだよ」
確かにお姉ちゃんの言う通りかもしれない。
「……じゃあ、お姉ちゃんから見て、お兄ちゃんのいい所ってどこ?」
「俊行のいい所ね……大切な誰かの為にはその子を傷つける事も躊躇わない強さ……かな」
言い換えれば不器用なだけだけどね、とお姉ちゃんは笑う。その笑顔はどこか嬉しそうで、誇らしそうだった。
「……お姉ちゃんは――」
私は声をだそうとして、でも途中で詰まる。
「ん? どうしたの?」
(――お兄ちゃんの事が好きなの?)
その言葉がでない。
「……アタシが俊行の事が好きじゃないか聞きたいの?」
「っ……!?」
なんで……。
「どうして分かるの?」
「姉妹だからね」
一言。当然のようにお姉ちゃんは言う。
「だから大丈夫よ。雪奈から俊行を奪ったりしないから」
そう言ってお姉ちゃんは綺麗に笑う。
「うん……ありがとう。でも――」
「でも?」
「……なんでもない」
(――それって質問の答えになってない)
私の思いに気づいているのかいないのか、お姉ちゃんは何も言わなかった。