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観察71:笑顔と涙

「それで? 次はどうする? もう帰るか?

キスの後。オレは雪奈にそう聞く。

「……お兄ちゃんてばあっさりしすぎなんだよ」

「なれてるからな」

嫌なくらいには。

「……次に行きたい所なのかな?」

何か言いたそうな顔をしながらも、雪奈は話を進める。

「あぁ。どこか行きたい所あるか?」

「ん〜……じゃあ一ヶ所だけ」

だったら、そこで渡せばいいかな。プレゼントは。

「んじゃ、暗くなるし行くか」

オレ達は公園を出た。


「……やっぱりここだったか」

雪奈に連れてこられた場所。そこはオレが想像していた場所だった。

「うん。だって今日は――」

ここは墓地。

「――お兄ちゃんの両親の命日だもん」

オレの両親が眠る場所。

(……七年か)

オレと雪奈の人生が大きく変わって。それだけの年月がたった。

「あれから七年もたったんだね」

「あぁ」

「おじさんとおばさん優しかったよね」

「そうだな」

うちの両親は本当に雪奈に甘かった。

「……いいのかな?」

「何がだ?」

「私が笑ってて」

「……何でだよ?」

「だって私のせいで……」

「お前、まだ心奈ここなさんの……」

何度も言い聞かせたはずなのに。

「でも私の誕生日の日におじさん達……お母さんも……」

確かにあの日は偶然だとしてもいろいろ不幸な事が重なった。でも……。

「だからといって、お前が悪いわけないだろ」

いろいろ不幸が重なった日。それがただ雪奈の誕生日だった。ただそれだけだ。

「……うん。分かってるんだけどね」

言葉は人の心を縛る。あの日の心奈さんの言葉は今も雪奈の心を縛っていた。

「……百歩譲ってお前が悪いとしてもな」

縛られた心を解き放つ事はオレには出来ない。だから今は縛られたままの雪奈を救う言葉をやらないといけない。

「お前は笑ってていい。いや……笑ってなきゃいけないんだ」

「……どうして?」

「母さんと父さん。お前の笑顔が好きだったから。……お前が笑ってなきゃ悲しむんだよ」

だからオレは今日という日だけは雪奈の願いをなんでも聞いてあげる特別の日。雪奈と両親の為に全てを捧げる日。

(そして今年は……)

今年の今日という日は……。

「だからお兄ちゃんって私の誕生日の日はなんでも言うことを聞いてくれるんだね」

「そうだな」

「いいのかな?」

「オレの両親の事を思うんだったら笑え」

「あはは………」

「お前は瑞菜か」

「あはは…………っ……うぅ……」

「?……雪奈?」

泣いて……るのか?

「ご…めん……っ……笑えない……っ……よぉ……」

(……結局泣かしたな)

例年、この日は最後にここに来る。そして最後の最後で――母さん達の墓前で――雪奈は泣いてしまう。

「……だったら思いっきり泣け。そのかわり明日からは笑顔だ」

もはや定められた言葉のようにオレは今年もこの言葉をかける。

(……結局オレじゃ救えないんだよ)

胸の中でなき続ける雪奈の頭を撫でながら、オレはそう思っていた。



「……落ち着いたか?」

「………うん」

目が少し赤くなっているが、落ち着いてはいるようだ。

「じゃあ線香を上げるか」

「うん」

オレは何本かの線香に火をつけ、半分を雪奈に渡す。

(……やっぱり無理だったよ)

オレを墓前でそう母さん達に話しかける。

(もし今日雪奈を泣かさなければ……ずっと笑わす事ができたなら……)

考えても仕方ない事。オレには雪奈を救う事なんて出来ない。だからオレは覚悟を決めた。

(……またな。父さん、母さん)

母さん達に一時のお別れを告げ、オレは雪奈に振り向く。

「じゃあ帰るか」

「うん。分かった」

そう言って雪奈は家に向かって歩き始める。

「あ〜……雪奈。ちょっと待て」

「?……どうしたの?」

「ちょっと目を閉じてくれ」

「?……分かったけど」

不思議そうな顔をしながらも雪奈は目を閉じた。

「もしかして……キス?」

「残念ながら違う」

オレは用意していたペンダントを雪奈にかける。

「開けていいぞ」

「うん。……これって?」

「プレゼントだよ」

「ほ、本当に? お兄ちゃんが私にこんなプレゼントを?」

……確かに今まではそういうプレゼントは避けてたけどな。

「いらなかったら返せよ」

「それはありえないんだけど……本当にいいの? この真中にある宝石ってエメラルドだよね?」

「らしいな」

買う時に店員さんに説明された。

(……本当に高かった)

オレが雪奈のために買ったペンダント。それはひし形の枠に二つの宝石がはまっている物だった。エメラルドを中心にして、もう一つの宝石が周りを包んでいる。

「この周りにある宝石はなんて言うの?」

「確か……ホワイトトパーズだったかな?」

詳しくは知らないけど。

「よく分かんないけど綺麗だね」

「それはよかった」

「でも……どうしてこんなのを私に?」

「誕生日プレゼント……ただそれだけだよ」

「……本当に?」

「本当だよ。なんどもなんども疑うな」

「むぅ……なんだか怪しい」

「いいから。とっとと帰るぞ?」

あいつらが待ってんだから。

「うん。納得してないけど帰るよ」

オレ達は帰路についた。

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