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観察70:悲しいキス

「それで? 結局来たのは公園かよ」

雪奈に連れられてきた場所は、近くの公園だった。

「うん。だって熟練のカップルは節約の為に公園で愛を確かめるものだってお姉ちゃんが」

……アイツの知識、微妙にかたよってないか?

「というか、オレ達熟練じゃないし。金はあるから節約する必要ないし」

バイト代と小遣いで今日遊ぶくらいは余裕だ。……プレゼントの為にその半分以上は消えたけど。

「ん〜……でも公園でラブラブするのがけっこう夢だったんだよ」

……安い夢だな。

「という訳でお兄ちゃん。とりあえずベンチに座ろう?」

「ん……ああ。分かった」

ベンチに座って何をするのか気になるけど。


「ねぇお兄ちゃん。膝枕だよ」

ベンチに座ってすぐ。雪奈がなんだか太ももの辺りを叩きながらそんなことを言う。

「膝枕? なんだよ。お前も相変わらず甘えん坊だな」

膝枕されたいなんて。

「違うよ!? ここはお兄ちゃんが私に膝枕される場面だよ!」

「……………は?」

「ここはお兄ちゃんが私に甘えて、私が『しょうがないなぁお兄ちゃんは……』って言う場面だよ」

「なぁ雪奈……ここは公園だぞ?」

「うん」

「周りには普通に人がいるんだぞ?」

「うん」

「そんなことできるわけないだろ?」

「出来るよ」

………恥ずかしいんだけど。

「……今日だけだからな?」

「えへへ……お兄ちゃんに膝枕。された事はあったけど、してあげた事はなかったよね?」

「そう……だな」

オレはそう言いながら恐る恐る頭を太ももにのせる。

(……やっぱり柔らかい)

というか、普通に気持ちいい。

「このまま眠ってもいいよ?」

「そう……だな」

本当に眠りそうだ。

「おやすみ。お兄ちゃん」

「あぁ……」

オレはそのまま目を閉じた。



「ん……あれ?」

目を開けると、夕暮れを背景にした雪奈の顔があった。

「お兄ちゃん? 起きたの?」

「雪……奈? 何で……って、ぁ……」

マジで眠ったのか。

「悪い……本気で眠ってた」

「もう夕方だもんね」

「……昼飯も食べてないよな?」

「一食分くらい大丈夫だよ」

まぁそれもそうか。

「てか、足、痺れただろ?」

「えへへ………うん。少し……」

少しじゃないだろうに……。

「じゃああれだな……膝枕だな」

オレは太ももを叩き、くるようにうながす。

「……いいの?」

「今日はお前のすることは何でも許す」

「えへへ………お兄ちゃんが優しい」

「オレはいつも優しいだろ?」

オレは冗談のようにそう言う。

「うん……知ってるよ」

「…………はぁ」

オレは太ももにのせられた雪奈の頭を髪をすくように撫でながらため息をつく。どうやら雪奈は冗談ですませるつもりはないらしい。

「だって……お兄ちゃんと一番長く過ごしてきたのは私だもん」

……そうだったな。

「だから……私がお兄ちゃんのこと一番好きなんだよ」

「……………………」

オレは答えない。応えることは出来ない。

「だから………キスして欲しいんだよ」

「……またか」

「またなんだよ」

「……またデコチューでいいか?」

「そこはお兄ちゃんに任せようかな」

……キス。オレは毎日のようにしている事。雪奈はその行為に大きな意味を求めている。

(……だからオレは応えられない)

雪奈の事が好きだから。雪奈の為に応えるわけにはいかない。

「……今日だけだからな」

だけど……今日だけは。今日だけは特別だから。雪奈の願いを叶えてあげる日だから。

(……特別の特別の日だから)

応えるべきじゃない。分かっているのにオレは自分に言い訳をする。

「……目を閉じろ」

オレの言葉に雪奈がゆっくりと目を閉じた。

(……ごめん)

それは誰に対しての謝罪だったのか。オレは罪悪感と共に雪奈に悲しいキスをした。


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