観察63:変わらないから
『とーく〜ん。おはよ〜』
朝。無駄にビブラートな感じで瑞菜の声が聞こえてくる。
「今日も来たわね。瑞菜さん」
こころが少し難しい顔をしてそう言う。
「そりゃお隣さんだからな」
「ただの幼なじみを毎日迎えに来るものかな?」
今度は雪奈が訝しげに聞いてくる。
「……今さらお前らに隠し事なんてしないよ」
「本当に?」
「ああ」
「大丈夫よ雪奈。隠し事はともかく、瑞菜さんと付き合ってないのは本当みたいだから」
隠し事ね……。こころには言われたくないが。
「とにかくオレは今日は先に行くな? 毎日お前らに合わせて瑞菜を待たせるのも悪いし」
「……やっぱり怪しいんだよ」
「ふ〜ん……俊行、行ってらっしゃい」
オレはその場を離れた。
「……あの態度。やっぱりこころの奴気づいてるよな」
瑞菜と駅に向かって歩いている途中。オレはさっきのこころの態度を思い出して言う。
「? こころさんがどうかしたの?」
「いや、実はな――」
オレは瑞菜の耳元に口を寄せ、オレの考えを教える。
「――てことを考えてるんだが……」
「あはは……既にこころさんにはバレてるんだ」
「どうせこころにはそのうち言うんだから別にいいけどな」
でも隠し事がろくに出来ないのは悲しい。
「それで? 大丈夫そうか?」
「もちろんおーけーだよ」
「よかった。ありがとな」
オレは感謝の気持ちを言う。
「お礼なんていいよ。だって大切な幼なじみのお願いだもん」
幼なじみ。それがオレ達の関係。
「……だったらお前も、もっとオレに頼れよ?」
「あはは……とーくんがそういうならね」
そう言って笑う瑞菜。でも言葉とは裏腹にその苦笑は拒絶しているように見える。
(……そりゃそうだよな)
結局はオレのせいで別れたんだから。付き合ってたころと全く同じという訳にはいかない。
「あはは……とーくんてば難しい顔してる」
「……悪い」
誰よりも優しい奴だから。だから瑞菜はオレの気持ちに敏感だ。
「謝らなくていいよ。私が決めた事なんだから」
「……優しすぎるよ瑞菜は」
「とーくんは不器用すぎるかもね」
「全くだ」
「でも私は……そういうとーくんだから……」
「……だから?」
「……幼なじみでよかったって思うよ」
瑞菜は悲しそうに苦笑したような表情をしてる。
「ありがとう」
そしてたぶん、オレも同じ表情をしてる。
「「あはは……」」
会話に困り二人一緒に苦笑する。
(……どうして別れたんだろう?)
こんなに可愛いくて優しい子と。付き合ってた頃と何も気持ちは変わってないのに。オレはもちろん、きっと瑞菜も。
「……(好きだよ)」
だからこそ、オレは何も聞こえなかった。ここで答えたら全て意味がなくなるから。瑞菜の優しさを台無しにするから。
(……オレもだよ)
だから、オレはただ心の中で呟いた。
次回、かなり大きな伏線の回収!……するかも。