観察56:重なるもの
「38度5分……思いっきり風邪ね」
体温計を見たこころがそう言う。
「……不覚だ」
「まぁゆっくり休みなさい」
「でも学校が……」
「許すわけないでしょ。しっかり治しなさい」
「仕方ないか……」
「雪奈と瑞菜さんには私から伝えとくからとりあえず寝ときなさい」
「でもまだ朝ごはん食べてない……」
ご飯食べなきゃ薬も飲めない。
「後で持って来てあげるから」
「そっか……悪いな」
オレはゆっくりと目を閉じた。
「ん………こころ?」
目を開けて最初に目に入ったのはこころだった。
「起きた? お粥だけど食べられる?」
「大丈夫だけど……オレどれくらい寝てたんだ?」
「1時間くらいかな。ぐっすり寝てたわね」
「1時間って……お前学校は?」
「休んだ」
「休んだって……お前そういうの嫌いだろ」
ずる休みとかそういった事が嫌いな奴だった。
「アンタを一人にするわけにもいかないでしょ」
「気にする必要ないのに……」
ガキじゃないんだからゆっくり休めば風邪なんてどうにでもなる。
「……とにかく食べなさい」
そう言ってこころはお盆からお粥のお椀とスプーンをとる。
「分かったよ」
オレは受け取ろうと手を伸ばす。
「………ん? こころ?」
だがこころはオレに渡そうとせず、お椀とスプーンを持ったままだ。
「……あ〜ん」
「……………何してんの? こころ」
よく分からないがお粥をすくってオレの口に近づけている。
「……口開けなさいよ」
「はぁ……」
オレは言われるがままに口を開ける。
「……んぐっ」
そして口にお粥が突っ込まれる。
「何すんだよ!?」
「食べさせてあげてんのよ」
「は?……ってもしかして『あ〜ん』ってあれだったのか!?」
あまりにもこころのイメージと違って気づかなかった。
「何よ……人が恥ずかしい思いをしてまでやってあげてるのに」
「恥ずかしいんだったらやるなよ……」
「……あ〜ん」
「……何なんだよ」
オレは訳も分からないまま食べさせられるのだった。
「ごちそうさま。おいしかったよ。ありがとうな」
一通り食べ終えたオレはこころにお礼を言う。
「……お礼なんて言わないでよ」
「?……こころ?」
「アンタが風邪ひいたのってアタシのせいじゃない」
「は?……もしかしてお前昨日の事を……」
「だって、昨日濡れたままで正座させてたから……」
確かにオレが風邪をひいたのはそれが原因かもしれないけど……。
「あれはどう考えてもオレが悪いだろ」
「それでも……正座させるのはお風呂に入らせてからでもよかったし……」
あくまでも自分が悪いと言うこころ。その様子にオレは既視感を覚える。
(……あの時と一緒じゃねぇか)
こころは何も悪くないのに。それなのに自分を責め、オレに罪悪感を覚える。
「こころ。少し近づけ」
オレはそんなこころが見たくなかった。
「何よ?……っ!?」
だからオレはこころにキスをする。自分から。ただ乱暴に。
「と、俊行……きゃっ!」
そしてオレは抱き締める。あの時と同じように。ただ強く。
瑞菜と雪奈が最近空気です。