観察45:ある意味貴重
「はぁ………毎回思うけど、ここって男の来る所じゃないよな」
「あはは……確かにそうかも」
場所はいわゆるランジェリーショップ。基本的には女性用の下着やランジェリーの売られている場所。普通に考えれば男の来る場所じゃない。まぁ、男性お断りと書かれた注意書きもないし、問題はないんだろうけど。心情的な問題以外。
「ところで、とーくん。毎回ってどういうことなのかな? まるで何度か来たことのあるような言い方だね?」
「実際そうだよ。雪奈に連れられてな」
「あはは……なるほど」
初めて来たのが中学か小学の高学年くらいだったな。
「雪奈が騒がしく品定めしてたからな。おかげさまでオレは恥ずかしいやら、店員さんの一部に顔を覚えられるやら大変だったよ」
「あはは………本当に大変だね」
まぁ、騒がしい以上に雪奈の容姿が目立ってたんだろうけど。
「まぁそんな訳だ。さっさと選んで帰るぞ」
「うん。……ところでさ、ブラジャーってどんなの買えばいいの?」
「……………………は?」
「あはは………したことないから全然分からないよ」
早くも前途多難な感じだった。
「とりあえずあれだ。瑞菜。お前、自分のアンダーバストがいくつか分かるか?」
「え〜と………ごめん」
「身体測定とかで測ってないのかよ?」
「あはは……前の学校でも二木高校でも測ったことないよ」
「そんなものか」
だったら仕方ないよな。
「ていうかその様子だと、トップバストがいくつかも知らないか」
「あはは……というか知りたくないけど……」
どう見ても小さいからなぁ……。
「とーくんてば失礼なこと考えてない? セクハラなんだよ」
「悪い悪い。まぁ彼氏特権ということで許してくれ」
「むぅ……仕方ないかな」
「でも、スリーサイズは別として、瑞菜って身長どれくらいなんだ?」
「あはは……それもけっこうセクハラな発言なんだけど……」
「まぁ、彼女のことを知りたいんだ。教えてくれ」
「仕方ないなぁ………145だよ」
「よし。今日から瑞菜はミニマム瑞菜だ」
「あはは……流石の私も怒るからね?」
デリカシーがなさすぎたか……。でも恥ずかしいからこんなテンションじゃないとここじゃやってられないんだよな。
「えっとまぁ、とにかく。店員さん呼んでくるから、その間に適当に良さそうなデザインの見てイメージをつかんでてくれ」
「おーけーだよ」
オレはその場を離れた。
「ん……やっぱりいたか」
オレは店員の中に知り合いがいたのを見つけて少し安堵する。
「よ、雛川。久し振り」
「?……ああ、海原俊行ですか。お久しぶりです」
中学の時、同級生だった雛川優里。オレとは別の高校に行ってるが、ここでバイトをしているから、比較的会う機会のある奴だった。
「けど、余裕だな。今年はオレ達受験生だろ? バイトなんてしてる余裕よくあるな」
「志望の大学を受かるくらいの実力は持っています。真面目にやっていれば余裕です」
「相変わらず頭いいんだな。今でも学年3位の秀才か?」
「残念ながら。入学以来ずっと2位ですよ。私の高校には広瀬夢真はいませんから」
「そういえば広瀬は白畑学園だったか。……てことは1位は……」
「ええ。相も変わらず忘れん坊な天才ですよ」
「誠矢か……懐かしいな」
「こっちは嫌と言うほど学校で会ってますけどね」
懐かしい話題で話が弾む。こんな感じで中学は過ごしていたのが思い出される。本当に懐かしい。
「っと……話してるばかりじゃ瑞菜に怒られるか。雛川。サイズを測ってもらえるか?」
「……気持ちの悪い事を言わない。確かに今は男性用のブラもありますが……」
「ちげーよ! 普通に考えたら連れのに決まってんだろ!」
「はぁ……だったらそう言う。妹さんのを測ればいいんですね? 彼女は今が成長期のようですから買うたびにきっちり測ったほうがいいですからね」
「いや、今日は雪奈じゃなくて……彼女のを」
「はぁ……ですから、あなたの恋人兼妹である白沢雪奈のサイズを測ればいいんですよね?」
「いや、雪奈は恋人じゃないし。オレの彼女は春日瑞菜って子だよ」
「…………初耳です」
「そりゃ言ってないからな」
「そうと決まれば行く」
「……なんかまたデジャブが」
オレはまた首根っこ掴まれて連れていかれるのだった。
「……ていうか瑞菜がどこいるのか知ってるのか?」
「……そういう事は早く言う」
どこか抜けてる奴だった。
「あれ? とーくんてばどうして店員さんに首根っこ掴まれて引きずられてるの?」
「残念ながら知らない。というか雛川いい加減に放せ」
「……これが海原俊行の恋人ですか?」
「ああ。可愛いだろ」
「ええ。不釣り合いなくらいには」
「大きなお世話だよ!」
確かにオレにはもったいないよ。
「店内では大きな声は出さない。迷惑です」
「お前は失礼だよ……」
「えっと……とーくん? これは浮気と受け取っていいのかな?」
「は? いきなり何を……」
「だって、とーくんが雪奈ちゃんやこころさん以外で女の人と話してるの見たことないのに……この人とは自然に話してるし……」
「あ〜……なんて言うかあれだ。中学の時とんでもなく美人な奴がいてな、オレそいつと仲が良かったから美人には耐性ができてんだよ」
「と、とーくんが実は女ったらしだったなんて……」
「ちげーよ。それは哀川誠矢ってやつだけだ。というか、仲の良かった美人てのは男だぞ?」
「………は?」
「保科雪ですか。確かにあれは反則でしたね」
「男のくせして誰よりも可愛くて美人という奴がいたんだよ。クラスに」
「……え〜と、可愛いってどれくらい?」
「とりあえず、今の雪奈じゃ全然敵わないくらい」
後2,3年して、雪奈がもっと可愛くなったとしても微妙だな。
「そんなにすごいんだ……」
少なくともオレが今まで見た中では一番可愛いだろうな……。
「てか、そんなことより測ってもらえ」
「ん。そうだね」
「雛川」
「分かりました。では海原俊行。あなたはここで待つ」
「了解。……したくないんだけどなぁ」
一人でここにいるのは辛いっての。
そんなオレの思いは軽く無視されオレは一人残された。
「お? 帰ってきたな」
試着室から瑞菜が帰って来た。別の仕事に戻ったのか雛川の姿はない。
「ただいま。とーくん」
「おかえり……てのもおかしいけど……どうだった? サイズ」
「うん……アンダーは65だったよ」
「へぇ……ちょうどいいな」
確か、日本の規格ではアンダーのサイズは65からだった気がする。
「それで? トップは?」
「…………」
「瑞菜? 小さいのは分かってるから言ってみろ」
「……………67.5」
「…………は?」
「67.5だよ! アンダーとトップの差が2.5だよ!」
「……………え〜と……何カップ?」
「AAAAだって」
「………そんなブラあるの?」
「店舗に在庫が一つもないからメーカーに注文するしかないんだって」
「なんて言うかあれだな………ごめん」
「うぅ………帰ったらカタログ見るんだもん」
「ああ。オレも一緒に見るからな」
不覚にもなんだか涙ぐんでしまったオレだった。
書いてて本当に涙ぐみました。