観察39:選択
「……つまらない」
「あはは……とーくんてば正直だね」
学年によるレクレーション。今はクラスで缶けりをしていた。
「……こんなので熱くなれるうちのクラスの奴らって」
「あはは……きっと素敵なことだと思うよ?」
「苦笑いしながら言っても説得力ないからな? 瑞菜」
永野を筆頭にクラスの奴らは盛り上がってる。オレと瑞菜は逃げる側だったが早々と捕まっていた。ちなみにオレ達を捕まえたのは永野。
「……なんだかんだで、こころも楽しんでるみたいだしな」
「こころさんは何に対しても真剣だからね」
「そういえば、最近瑞菜とこころって仲良いよな?」
今日も一緒に学校行ってたし。
「いろいろと、とーくんのこと聞いてたら自然にね」
「は? オレの事? 何をこころから聞くってんだよ?」
「私がいない間のとーくんの事だよ」
「はぁ……そんなこと聞いてどうすんだよ?」
「とーくんの事なんでもいいから知りたいんだよ」
「ふ〜ん……そんなもんかね」
なんとなく分からなくもないが、オレは今瑞菜がそばにいるだけで満足だ。
「本当は……雪奈ちゃんに聞けたら一番なんだけどね」
「…………」
今日の朝の雪奈の様子を思い出す。
「なんだか嫌われてるみたいだから」
「……別に瑞菜が嫌われてるわけじゃない」
本当は分かってた。雪奈に嘘をつける訳がないって。それくらいにはオレと雪奈の関係は近い。オレと瑞菜の事を隠し通せるわけもない。
「オレがはっきりと言ってないからだよ」
「でも……それは雪奈ちゃんのためじゃ……」
「本当にそう思うか?」
たしかに本当の事をオレから言ったら雪奈は傷つくかもしれない。それでも今の歪んだ状態よりも道理で考えたら決まっている。
「………やっぱり言うしかないのかな?」
「それが一番のはずだ」
そう……分かってるんだ。どうすればいいかなんて。何が正しいかなんて。
「だから……ごめんな瑞菜」
何が正しいかなんて分かってる。だからこそオレは……。
「オレは黙っていようと思う。間違っていようとも。雪奈のためにならなくても。瑞菜につらい思いをさせても」
間違った道を選ぼう。
「オレはもうあいつには必要ないから。あいつに嫌われないといけないんだ」
論理なんて何もない、ただのオレのエゴ。
「今はこころがいる。だから今のオレは雪奈の成長を止める邪魔者でしかない」
雪奈には味方になる人が必要だった。だからこそオレはそばにいた。でも今のオレは雪奈を縛る鎖にもなってる。オレはそれを壊したい。
「あはは……とーくんて本当に不器用なんだ……」
「ごめん。オレ、お前に本当にひどいこと言ってる」
「分かってくれてるならいいよ」
この状況は瑞菜にも辛いはずなのに、オレはそれを瑞菜に強要しようとしている。
「私はそんなとーくんが……不器用で優しいとーくんが好きだから」
「……ごめん」
「あはは……ここはありがとうって言って欲しかったかな」
「ごめん………」
「私はとーくんが好きだから……ずっとそばにいてあげるから」
ずっと一緒にいようと言った奴からオレは離れようとしている。やっぱりオレは嘘つきだ。
「大好きだよ……とーくん」
オレはそっと瑞菜に抱きしめられた。
「……なぁ、山野さん」
「……何よ? 友人Z」
「永野なんだけど……まぁいいや」
「それで? 何よ?」
「あそこのラブラブバカップルは周りに人がいること分かってるのかな?」
「忘れてるでしょ」
「だよなぁ……」
「はぁ……馬鹿俊行……なんでみんなが辛くなるような選択をするのよ」
「それって山野さんも辛いの?」
「ノーコメント」
「なんて言うかあれだな……リア充氏ね」
なんか永野が優しい。