観察36:何気ない日常を
「何かさぁ……最近、お兄ちゃんと昔の人って仲いいよね?」
休日の午後。借りてきた映画が見終わり、暇を持て余していたところで雪菜がそんなことを言ってきた。ちなみにこころはバイトの面接に行っていていない。
「何だよ? いきなり」
「だって最近、昔の人お兄ちゃんにベタベタしてるし、お兄ちゃん嫌そうじゃないし……」
「そりゃ幼なじみだからな」
「でももう高校生だよ? それなのにベタベタし過ぎだと思うな」
「そのセリフはお前にそのまま返す」
「ぅぐ……で、でも最初会った時よりも仲良さそうだし……もしかしてお兄ちゃん達……」
付き合ってるの? そう雪菜は目で聞いてくる。
「もしかして何だよ?」
だがオレは気づかない振りをする。
「ぅぅん……何でもない」
そうすれば雪菜が怖がって引くことが分かっていたから。
「ふ〜ん……おかしなやつ」
卑怯だ。オレは。雪菜に対して。
「むぅ……お兄ちゃんてば鈍い」
そして卑怯者のオレは嘘をつき続けるだろう。雪菜に本当に好きな人が出来るまで。
「そう言えば、お前らは今度のレクレーションドコに行くんだ?」
「レクレーション? 市の体育館に行って、そこでドッチボールだって」
「ふ〜ん……楽しそうだな」
「うん。お兄ちゃん達は?」
「学校の校庭で缶けり」
「………小学生?」
「高3だ」
雪菜の兄として、嘘をつき続ける。雪奈の幸せを願って。
「でもいいよね。お兄ちゃんてば。こころお姉ちゃんと一緒に遊べるんだもん」
「そうか? あいつと一緒に遊んでも疲れるだけだぞ?」
「ん? 何で?」
「あいつは自分の道を行く人間だからな。つきあってたら、たまに大変な目にあう」
「そうかな? ちゃんと私達のこと見ていてくれると思うけど……」
「それとこれとは別の話だ」
そうやって、自分にも嘘をつきながら。
明日は待望の永野登場です。