観察32:消えない物
「……何で、そんなこと言うんだよ?」
瑞菜に確かに拒絶された。その事はオレにかなりの衝撃を与えた。
「これは私の問題だから。他人が踏み込んで欲しくないんだよ」
それはオレも思ったこと。覚悟もない人が踏み込むべきじゃない。そう思った。でも……。
「だったら何でオレに助けを求めたんだよ?」
「それは夢の中の話だよ」
確かにそう言われたらそれまでだ。
「……オレじゃ助けになれないのか?」
例え夢の中でも助けを求めたのはオレに助けて貰いたかったからじゃないのか?
「……オレに助けて欲しくなんてないのか?」
「……欲しいよ」
小さく、でもはっきりと瑞菜は言った。
「助けて欲しい。とーくんに。きっととーくんは私を助けてくれるから」
「だったら……何で?」
「助けて貰うつもりだった。その為に帰ってきたつもりだった」
「……じゃあ何で?」
本当は分かってる。瑞菜がオレに遠慮する理由なんて一つしかないから。
「雪奈ちゃんだよ」
それは予想通りの答えで、同時に納得するしかない理由だった。
「そう……か……」
瑞菜は気づいている。雪菜の境遇を。そしてきっとオレの気持ちを。
「本当は……ね……関係ないって思ってた」
「何をだよ?」
「とーくんが誰を好きだったとしても、雪菜ちゃんの想いが一途だったとしても」
きっと誰よりもオレのことを理解できる幼なじみは続ける。
「大切なのは私の気持ちなんだって……そう思ってた」
「……瑞菜の気持ち?」
「うん。とーくんのことが好きだって気持ち」
「……それはどういう意味でだ?」
「純粋な好意半分……恋愛半分……かな」
「………………」
「ずっと好きだった。どんなに薄れていっても、寂しくなくなっていっても」
「……オレ以外を好きになったって言ってなかったか?」
「それでもとーくんのこと好きだった。きっとそれはずっと変わらないよ」
例えば結婚した人がいて伴侶と死に別れたとする。その人が再婚したとしても死んだ伴侶への気持ちがなくなる訳ではない。瑞菜が言いたいことはそういうことだろう。
「そっか……」
「うん……そうだよ」
「でもだったら何でオレに遠慮するんだよ? 大切なのは瑞菜の気持ちだったんだろ?」
オレは気づいていた。瑞菜が過去形にして話していることを。
「……昨日見てたから」
「…………何を?」
「とーくんが雪奈ちゃんにキスしてたとこ」
「………………………………………………」
「……あんなの見せられたら私は引くしかないのかなって」
いつものようにあははと瑞菜は笑う。でもそれはどこまでも痛々しくて、見ていられなくて………。
「引かなくていい」
……瑞菜の事を愛しく感じた。
……どうなるんだろう? この後。