観察31:看病〜瑞菜〜
「瑞菜? 起きてるか?」
オレは自分の部屋にノックをするという何だかおかしな事をして話しかける。
「……返事はないか」
寝てるのかな?
「とー……くん……」
「ん? 起きてるのか? 入るぞ?」
呼びかけるがやっぱり返事はない。
「じゃあ失礼して……」
オレは自分の部屋に入る。やはりというか、瑞菜はオレのベッドで寝ていた。
「……寝てるのか」
だったら無理に起こすこともないか。
オレは静かに部屋を出ようとする。
「とー……くん」
「……寝言か?」
振り返って見るがやっぱり瑞菜は寝ている。
「たすけて……」
「瑞菜……?」
今、助けてって言ったか?
「いゃ……だよ」
よく見ると瑞菜はうなされているように見える。ひどく汗も出ている。
「……悪い夢でも見てるのか?」
風邪だと言っていたし、苦しいのかもしれない。
「……起こす……べきか?」
オレには判断が難しかった。
悪夢にもある程度種類がある。本やテレビで見た事が悪い方へ反映されて見るもの。自分の過去の経験が恐怖感や不安が増幅されたものなど。
(……もし今うなされてるのが瑞菜の過去に関係があるのなら、簡単に踏み込むべきじゃない)
雪奈も昔、こうしてうなされていた。それが雪奈の境遇を知るきっかけになった。
夢というのは人の深い部分に関係していると思う。覚悟もない人が踏み込んでいい所ではない。
(……起こさないで出よう。瑞菜も知られたくないはずだ)
「助けて……とーくん」
それは本当に寝言なのか。瑞菜の声ははっきりと聞こえた。
(……助けて……か)
小さかった頃……オレがまだ瑞菜のことが好きだった頃を思い出す。
あの頃の瑞菜はオレの後ろをまるでヒヨコのようについてきて一緒に遊んでいた。それで何か困ったことがあるといつもオレに「たすけてよ〜とーく〜ん」と言ってきた。大したことない事なのでオレは簡単に助けてやって……。
そしてその日別れるとき、瑞菜はオレの母さんにオレの事をまるでヒーローのように話すんだった。それがオレには恥ずかしくて、同時に誇らしくて……。
『変わらないんだなって……そう思ったの』
一緒に観覧車に乗った時のことを思い出す。瑞菜はオレに変わらないって言った。それはつまり瑞菜にとってオレは自分を助けてくれる存在ということで……。
だからだろうか。オレは瑞菜の体を揺すり、起こしていた。
「ん………とーくん?」
「うなされてたぞ?」
「あはは……うん。起こしてくれてありがとう」
「悪い……夢でも見てたのか?」
「そうかな……風邪引いてたからかも」
瑞菜は笑顔だが、どこかその笑顔は痛々しい。
「どんな夢見てたんだ?」
「なんでもないよ。おかしな夢」
「本当か?」
「あはは……なんで疑うの?」
「お前、寝言でオレに助けを求めてた」
「あ…はは……そっか……寝言なんて言ってたんだ……恥ずかしいな」
「茶化すなよ。なんだよ? オレに言えないようなことなのか?」
「うん。そうだよ」
瑞菜ははっきりとそう言った。
最近シリアス多いなぁ……。永野の出番はまだだろうか。