観察30:看病〜雪奈〜
「ほら雪奈。とりあえず熱測れ」
オレはこころの部屋でベッドに腰かけている雪奈に体温計を渡す。
「むぅ……お兄ちゃんにおでこで測って欲しい」
「却下な」
恥ずかしいし、ありきたりだし。
「うぅ……じゃあ測るね」
雪奈は胸元を開け脇に体温計を入れる。
(……こうして見るとなんかエロいな)
「……なんだかお兄ちゃんの目がいやらしいんだよ」
「心配するな。仕草の問題で、お前事態には興奮してないから」
「すっごく失礼だからね」
「……だったらどうすんだよ?」
「私に興奮して」
「却下な」
「むぅ……」
そこでむくれるなよ。
「ん……やっぱり熱はないね」
電子音がして熱が測り終わったのを知らせる。やはり熱はないようだ。
「じゃあ、きっちり寝とけば大丈夫そうだな」
「うん。お昼まで寝てるね」
「あー……でもどうしよう? 昼飯」
自慢じゃないが料理なんて調理実習くらいでしかやったことはない。
「あれ? 気付いてなかったの? お姉ちゃんがちゃんと用意してたよ」
「……あいつも本当に気が利くやつだな」
あいつに弱点とかあるのだろうか?
「……ところでさ、お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「お兄ちゃんて好きな人いるの?」
「くふっっ!?」
こいついきなり何言い出してんの?
「何をやぶからぼうに……」
「だって、昨日あんなことあったし……気になるよ」
「と、いわれてもなぁ……」
まさか本当のことを雪奈に言う訳にはいかないし……。
「とりあえずオレはお前で精一杯だからな。恋愛している暇はないよ」
「むぅ……それって答えになってないよ」
「どちらにせよもう答えないからな」
困るし。
「もしかして……昔の人が好きだとか?」
「……瑞菜?」
「うん。だって幼馴染なんでしょ? 自分のベッドをためらいなくわせるくらいだし……」
「それとこれとは恋愛感情とは別問題の気もするが……。まぁ、雪奈よりかは女の子として見てるかもな」
雪奈の場合、女の子とか以前に雪奈だからな。
「うぅ……お兄ちゃんは昔の人のことが忘れられないんだね……」
「すっごい不穏当なセリフありがとう」
「お兄ちゃんなんて昔の人のところに行けばいいんだ」
「言われなくてもそろそろ行くつもりだが……」
「行かないで!」
「どっちだよ!?」
「私を捨てないで!」
「……本気で捨ててこようかな」
「い、いや冗談だよ? だからそんな本気で悩むような顔しないで」
「はぁ……とにかく寝ろ。お前が寝るまではいてやるから」
「うん。ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみ」
しばらくして可愛い寝息が聞こえてきた。それを聞き届けてオレはこころの部屋をそっと出た。
この話の中の雪奈は楽しそうですね。
ところでこの前、この作品のIFストーリーを投稿しました。タイトルは『歪んだレール』です。少し長いしバッドエンドですがこの作品を読んで頂く上では読んでもらいたい作品です。俊行と雪奈のもう一つの物語を読んでもらえると幸いです。