観察25:虫の知らせ
「……雨か」
窓の外は雨がしとしとと降っている。
「来ないわね?」
「あぁ……」
雪奈はまだ来ない。今までこんなことは数度しかない。考えられる可能性は……
(最悪な可能性は何らかの理由で雪奈が家を出る事が出来ないことか……)
寝坊してるだけなら心配ないが、雪奈が出ようとしているのに出れないとするとけっこうアウトな状況だ。
(後はトラブルに巻き込まれた可能性か)
雪奈の家とオレの家はそんなに離れていないから来る途中でそんな事そうそうないと思うが……
「こころ。お前はどう思う? 雪奈の事」
「……もしかしたら外にいるかも」
「この雨の中か?」
「最悪な可能性がないとするならそれしかない。雪奈ってそこまで寝坊助じゃないでしょ? いつもはアタシ達が起こされてるし」
「じゃあ、なんかアクシデントが?」
「ないとは言えないけど……たぶん違う」
「じゃあ何が……」
「聞かれたのかもしれない」
「何を?」
「さっき少し物音がしたから、もしかしたらと思ってたんだけど……」
「だから何を?」
「あんたが雪奈と付き合う気はない。この部分だけを聞けばあの子にはショックなんじゃない?」
「まさか……」
聞かれたのか? あの話を?
「どちらにせよ捜しに行くしかないわよ」
「そう……だな……」
どこまで聞かれたのか。どう思われたかは分からない。でも、もし雪奈が傷ついたならオレは……
(……自分が許せない)
本当に聞かれたかも分からない。それでもオレは自分が許せなかった。
「こころ。お前は家にいてくれるか?」
「……お風呂でも用意して待ってればいいかしら?」
「それで頼む」
「……馬鹿ね。あんたがそんな顔する必要ないでしょ? 気付かなかったアタシが悪いんだから」
「馬鹿はそっちだろ。例えどんな思いがあろうと、むやみに人を傷つけたらいけないんだ」
いつのまにか、証拠もないのに話を雪奈に聞かれたことになってる。でもオレもこころも確信していた。
「じゃ、行ってくる」
「傘は?」
「いると思うか?」
「ひとり分ね」
「……お前って無駄にロマンチストだよな」
「さっさと行きなさい。アタシ達のお姫様が待ってるわよ?」
「はいはい。行ってきますよお母さん」
そう言って一つの傘を手にその場を後にした。
気づけたのは超能力じゃありません。絆です。