観察24:雨模様
今回は雪奈視点。
「うぅ……少し寝坊しちゃった」
別に今日は学校休みだから遅刻とかは大丈夫だったけど、おかげで家を出る時に大変だった。
「お兄ちゃん寂しがってるかな?」
私がこんな時間にお兄ちゃん家にいないなんて本当に久しぶりだし。やっぱりお姉ちゃんが来て気がゆるんだのかな?
(……そっか、お姉ちゃんがいるから寂しくないんだ)
お兄ちゃんとお姉ちゃんは仲良しだもん。私がいなくても楽しく………
ズキッ
(あれ? 何で? 胸が痛い……)
まさか嫌な病気じゃないよね?
そんなことを考えているうちにお兄ちゃんの家についた。鍵をあけて中に入る。
「でも分かるだろ? 雪奈に恋愛なんてまだ早いって」
(……え?)
ドアを開けて入ったところでお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
私が恋愛するなんて早い? どういう事なんだろう?
私は靴を脱げずその場に縫い付けられる。
「そりゃそうかもしれないけど……でも雪奈ももう高校生よ? 例え雪奈が愛情に疎いとしても、恋愛してもおかしくないでしょ」
愛情に疎い?……私のことそんなふうに思ってたんだ……
「そうだとしてもオレ以外だ」
そこまで聞いた私はお兄ちゃんの家を飛び出していた。
「お兄ちゃん……」
近くの公園。私はブランコに乗って足をぶらぶらさせていた。
(……リストラされたサラリーマンみたい)
心情的には似てるし。
お兄ちゃんとお姉ちゃんがどうしてあんな話をしてたのかは分からないけど、すくなくとも話しているのは私のことで……。
「私が……子どもって言いたいんだよね?」
よく分からないけど、そういった事を言ってたんだと思う。だから恋愛は早いってお兄ちゃんは……。それに……
『そうだとしてもオレ以外だ』
「っ……」
またズキンっと胸が痛む。
(……私とは付き合えないって意味だよね?)
分からない。分かりたくない。それなのにそうとしか思えない。
漠然と思ってた。お兄ちゃんと私はずっと一緒にいるんだって。好きかとそういった恋愛感情以前に、それが当然に思ってた。家族みたいな関係から、本当の家族になるんだと。でも……
(……お兄ちゃんはそういうつもりなかったんだ)
きっとお兄ちゃんにとって私は妹みたいな存在にすぎなくて、家族ごっこを続けているだけなんだ。
(……本当の家族になんてなれないんだ)
私はどうすればいいんだろう? お兄ちゃん以外の人を好きになればいいんだろうか? 少なくともお兄ちゃんはそう言っていた。
(でも誰を?)
私にとってたった一人の異性はお兄ちゃんで、ずっと一緒だと思ってた人もお兄ちゃんで……。
「……分からないよ」
やっぱり私が子どもだから? 恋愛なんてできないから? お兄ちゃんと一つしか変わらないのに……。
「教えてよ……お兄ちゃん」
呟く私に一滴の水が落ちる。
「……雨?」
一滴の水が重なりそれは雨になって私を濡らしていった……。
雪奈が子どもなのか大人なのか。それはきっと関係のないこと。大切なのは何か。それに雪奈には気づいて欲しい。