観察16:それぞれの想い
「お兄ちゃんお兄ちゃん。最初は何に乗る?」
「観覧車」
「いきなりクライマックス!?」
「あはは……とーくんらしいと言うか何と言うか……」
普通に観覧車だけ乗って帰るのもありだと思うが。
「じゃあ瑞菜。お前は何に乗りたい?」
「リムジン」
うん。確かにオレも乗ってみたいな。
「というかお兄ちゃん。私には聞かないの?」
「聞かない」
「即答だね………」
「どうせお前はジェットコースターとか言うんだろ?」
ちなみに以前雪奈と来たときはジェットコースターに朝から晩まで乗り明かしたな。
「うぅ……その通りだけど……」
「あはは………ところで私にはツッコミないのかな?」
「「ないよ」」
「即答だよ……」
「とにかくどこから回る?」
「私はジェットコースターに乗れたらなんだっていいんだよ」
「私は一回観覧車に乗れたら後は付き合うよ」
「よし。じゃあ雪奈は一人でジェットコースター、オレと瑞菜は観覧車な」
「ここにきて仲間外れ!?」
「希望をとった結果だ」
「あはは……とりあえず雪奈ちゃんに付き合おうよ。観覧車は後でいいんだから」
「はぁ……まぁ瑞菜がいいならいいけど………後悔するぞ?」
「? 何のこと?」
「お兄ちゃん! 昔の人! 早く行こうよ!」
「………まぁ、死にはしないか」
オレと瑞菜は雪奈に引っ張られるようにしてジェットコースター乗り場に向かった。
「………後悔しました」
ジェットコースターほぼ休憩なしで乗り続けたからな。気持ち悪くもなる。
「大丈夫か?」
「あはは………食べたもの吐きそう……」
気持ちは分かる。
「う〜ん……満足した」
そりゃ昼飯はさんで日が傾くまで好きな乗り物に乗ったらな。
「お兄ちゃん。次はどこ行く?」
「瑞菜がこんな状態じゃ無理だろ」
「あはは……私はいいから二人で行ってきなよ」
「でも……」
「大丈夫。ワンアトラクション分休めれば大丈夫だから」
「お兄ちゃん。昔の人もそう言ってるんだから行こうよ」
「……まぁ大丈夫は大丈夫だろうけど……」
「うん。どこか一つ回ってきたら迎えにきて」
「ふぅ……分かったよ」
まぁ雪奈じゃないし、一人で大丈夫だろ。
「じゃあお兄ちゃん行こう?」
……けど雪奈は少しは反省すべきだな。
「それでどこ行くの?」
「お化け屋敷」
「うぇ………」
「お前に付き合ったんだ。オレにも付き合ってくれるよな?」
「え〜と……気分が……」
「却下な」
オレは雪奈の襟を掴んでお化け屋敷へ向かった。
「うぅ………くらいよ」
「そりゃ明るいお化け屋敷なんて怖くないからな」
「こ、怖くなんてないんだよ!」
誰もお前がどうとかは言ってないがな。
「こ、怖くなんてないんだからね!」
何でツンデレ風?
「……………………」
「お、お兄ちゃん? 何で何も喋らないのかな?」
「……………………」
何でと聞かれたら雪奈を怖がらせるためだが。
「お、お兄ちゃ〜ん……」
相変わらずホラー系苦手だよな。
「こ、こうなったら……」
と、いきなり雪奈がオレの腕に抱きついてきた。
「………何やってんだよ? 雪奈」
歩きにくいことこの上ないんだが……。
「す、スキンシップなんだよ」
「ふ〜ん……微妙な胸が当たってんだが大丈夫か?」
「っ――――――!?」
暗くてよく見えないけど、こいつ赤くなってるな。
「恥ずかしいんだったら離れれば? スキンシップなんて間に合ってんだから」
「むぅ……お兄ちゃんの意地悪」
「まぁ、優しくはないな」
「むぅ………」
そこでむくれますか。
「ていうか雪奈。少し気を付けた方がいいぞ」
「ん? 何で?」
そんなこと決まってんだろうに。
『オンドリャァァァァァア!!』
「―――――――――っ!!?………きゅぅ……」
「ここはお化け屋敷だ……って気絶してるし」
子供だましの仕掛けに普通そんなに驚くか? ちなみに仕掛けはフランス人ぽいゾンビの機械が叫ぶだけだった。
「雪奈?」
オレはとりあえず起きないか肩をゆすってみる。
「うぅ………三途の川が………」
「とりあえずは大丈夫そうだな」
全然起きる気配はないが命に別状はないだろう。………気絶してるだけなんだから当然か。
(……問題はこれからどうするかだが)
悠長に雪奈が起きるのを待っていたら瑞菜が心配するだろう。となれば選択肢は絞られる。
1:雪奈を置いてく。
2:雪奈を見捨てる。
3:雪奈を忘れる。
4:雪奈を殺してオレも死ぬ。
(………あほかオレは)
1から3はともかく、4はないだろ。昼どらかよ。
(……普通に背負って行くか)
オレはけっこう存外な扱いで雪奈を背負う。
(………思った以上に軽いな)
それになんというか………。
(いろいろ柔らかい………)
って、オレ何かんがえてんだよ? 相手は雪奈だぞ。
「むぅ……お兄ちゃん………」
「ん? 雪奈、起きたのか?」
「ん〜……くぅ……」
「寝てんのかよ」
寝言か。
「……好きだょ……」
「何が好きなんだか……」
オレは雪奈の寝言につっこみながらお化け屋敷を進んで行った。
「あれ? とーくん。雪奈ちゃんどうしたの?」
オレの背中には雪奈がまだいた。お化け屋敷はとっくに出たのだが、起きる様子はない。
「お化け屋敷で気絶してそのまま」
「あはは……起きないんだ?」
「ああ。別にうなされてるわけでもないし、無理に起こす必要もないしな」
「そっか……それじゃそろそろ帰る?」
「いや、でもまだ観覧車乗ってないだろ?」
「けど、雪奈ちゃんがそれじゃ行けないよ」
「係の人に預ければ大丈夫だろ」
事情を話せば普通に預かってもらえるはずだ。
「でも……乗りたいんだろ? 観覧車。なんならオレが雪奈の面倒見ててもいいし」
「あはは……さすがに一人で乗るのは寂しいかな」
「じゃあ決まりだ。預けてくる」
「うん……でも雪奈ちゃん怒らないかな?」
「瑞菜が心配することでもないよ」
「うん……」
オレは少し浮かない顔をしている瑞菜を置いて係の人に雪奈を預けに行った。
「本当によかったのかな?」
観覧車の中。ゆっくりと動く歯車の中で瑞菜はそんなことを言ってきた。
「大丈夫だって。別にあいつは観覧車なんて乗りたくないだろうし」
ジェットコースターにさえ乗れればいいやつだからな。
「あはは……そういうことじゃなくて、私がとーくんと二人きりになんてなってよかったのかな?」
「は? 別に大丈夫だろ」
瑞菜の言いたいことはなんとなくわかる。でも……。
「オレと雪奈は別に恋人同士でもないし、オレと瑞菜は友達同士。どこに遠慮する要素があるんだ?」
「そうだけど……雪奈ちゃんはとーくんのことが好きなんだよね?」
どこか当然でもあるように瑞菜は言う。
「……そりゃ、兄妹みたいなもんだからな」
「本当にそれだけなの?」
「ああ。……確かに雪奈オレの事をそういった意味で好きかもしれないって思ったこともある。でもやっぱり違うと思うんだ。だって、雪奈にとって近しい男はオレだけだから。例え雪奈がオレの事をそういった意味で好きだと思っててもそれは本当の恋愛じゃない」
「そうだね……そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
「そうなんだよ。……あいつはまだ子どもなんだから」
いずれ雪奈には本当に好きな人ができる。そしてオレからすぐに離れていくだろう。だって雪奈はオレに依存しているだけだから。オレから自立し、好きな人と支えあっていく。そんな恋愛をする日がいつか来る。
「……子どもだけど、子どもじゃないと思うけどな……私は」
「何がだよ?」
「雪奈ちゃんは確かにいろいろな事を知らないと思う。恋愛とかもそう」
「だったら、オレの言うとおりじゃないか」
「でも……雪奈ちゃんは選んだことを後悔しない覚悟を持ってる。だから……」
「知ってるよ。ずっと。あいつがそういう奴だってのは。だから、オレは答える訳にはいかないんだ」
後悔はしないだろう。あいつは掴んだものを誇りにすらするはずだ。でも、だからこそオレは認めない。あいつがもっと幸せになる選択肢を選ばせたい。
「あはは……とーくんてばいじっぱりだね」
「大切なんだよ……あいつのことが。きっと誰よりも」
だからこのことに関しては誰よりも意地を張る。
「そっか……とーくんは不器用なんだね」
「悪かったな」
「ううん……違うよ。変わらないんだなって……そう思ったの」
「お前だって変わってないだろうが」
「変わったよ……うん。変わった」
「……何が変わったって言うんだよ?」
「少なくとも私はとーくんの事が好きじゃなくなった」
「……それくらい変わったうちに入らないだろ」
「あの頃の私はとーくんが全てだったから。とーくんと一緒にいたくて、別れた後は寂しくていつも泣いてて、また会えるように願掛けまでして……。でもいつの間にか寂しくなくなって、とーくんじゃない男の子に恋もした。………私は変わったんだよ」
「それは………」
オレも同じだった。本当に。寂しかったはずなのに、好きだったはずなのに、そういった気持ちはいつの間にか薄れていって……。
「それは……そうだろ。子どもだったんだから」
いつまでも気持ちを持ち続けるなんて大人でも無理だ。
「だからそれは当然の事なんだ。変わる変わらない以前のことだから。……だからやっぱりオレにとって、瑞菜は瑞菜なんだ」
あのころと変わらないオレの幼馴染。例えオレのことが好きでなくてもオレも変わったんだから。
「……やっぱり後悔しないと思う」
「?……なんの事だ?」
「後悔してるのは私なんだから……」
「瑞菜?」
「……………………」
結局、観覧車を降りるまで瑞菜がしゃべる事はなかった。
「う〜ん……楽しかったねお兄ちゃん」
夜。家の前で雪奈が言う。結局雪奈は電車の途中で起きた。寝すぎだ。
「えっと………とーくん、今日は誘ってくれてありがとう。楽しかったよ」
瑞菜も今は普通にしゃべってくれる。少しぎこちない気もするが気のせいだろう。
「とりあえずあれだ。今日は楽しかった。以上」
なぜか、みんな会話が成立してない。まぁ、オレが二人が話しかけてきた事を流したからなんだけど……。
「というわけで解散だ。今日はもう雪奈も家に帰れ」
「むぅ……そんなことできないよ」
仕方ないだろ。なんか恥ずかしいんだから。
「だったら雪奈ちゃん。私の所に来る?」
「え? でも……」
「いいからいいから。……それじゃ、とーくんまたね?」
「ああ」
「私は納得してないよ!?」
なんか叫んでる雪奈は無視して、瑞菜は雪奈を連れて行った。
「はぁ……なんか助かった」
やっぱりあの幼馴染にはかないそうにないと思うオレだった。
ここで確認。この小説は一応恋愛小説