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定命の子らが神の御名を称えるようになったお話。チュールチュール神チュール、と。

 戦神チュールの加護を得てあらゆるモンスターをテイムできる能力を得たハイエルフの少年モフリエル。

 大望を果たすべく森を出ることを決意した。

「その大望とは世界を愛で満たし、争いを無くし、全ての者を幸福にすることである」

 そう高らかに宣するモフリエル。傍らに、ちろりと視線を投げかけて、

「で、貴様は何が目的なのだ、戦神チュールを僭称する痴女」

「同じ同じ。わたしも世界を愛で満たし、争いを無くし、全ての者を幸福にしてやりたくてたまらない神様だよ」

「なら私も神様みたいなものだな」

「不敬な! 思い上がってるう~!」

「神は神でも貴様より上位の神なわけだが? 思い上がっているのはどちらだ、邪神が! 貴様の真の目的を正直に話せ。チュール汁やらねえぞ」

 モフリエルはチュール神の加護を得たから増長しているわけではない。元からこうです。モフリエルは誰に対しても公平で、人によって態度を変えることのないとても気持ちの良い子です。

 戦神チュールはモフリエルのその真摯な態度に深く感じ入り、その大いなる胸の内を彼にだけ明かす。

「ぶっちゃけ信者を沢山獲得したい。信者からのお布施で毎日お菓子食って寝て過ごしてユーチューブ見てるだけの神様になりたい」

「この世界を救うには、やはり私が上位の神になるしかないようだな。貴様はその為に使役してやる。尽くすがよい」

「増長限りなし! 不敬不敬! 働きたくないでござる!」

「チュール汁やらねえぞ」

「ハイご主人様」

 人間素直が第一だ。

「で、私が世界を愛で満たし、思うがままモフモフするにはどうすれば良いか、邪神よ、考えを示せ」

「わたしに言ってんの? まあ、こういう冒険の旅に出るときは近くの村で困り事なんかを聞いて解決してやるのがセオリーなんじゃない? 村を襲う悪いモンスター倒すとか。知らんけど」

「村へ行けと? 私に?」

「嫌なの?」

「村の方から来い。困ってることがあるなら頭下げて頼みに来るのが筋だろうが」

 話が進まねえのである。さっさと行け。


  ◆


 というわけでモフリエル。困苦に晒される人々を捨ててはおけぬ、と風のごとき速さでとある村へと赴いた。モフリエルが一人暮らしていた深奥の森から随分と行ったところにある辺鄙な村である。

 それでも立派な道は通っているし、石造りの家もある、中々に活気のある村のようだ。

「これだけ大きな村なら不幸せな者も多くいるに違いない。よかったよかった」

「じゃあ、早速困っている人を助けてあげなさい、いと高きエルフの子よ。そんでわたしの信者を増やしなさい」

 困っている人の弱みにつけ込んで信仰を促す。戦神チュールは紛うことなき善神である。

「さあ、知らしめなさい。皆が困苦に喘ぐとき、それを救うのは戦神チュールの加護を受けし、いと高き者であることを! チュールを崇めればこんなに良いことがあるよ! って皆を啓蒙してあげて! これで信者ガッポガッポ! うひ~左うちわですわ~」

「その前にまずは武器屋だな」

 いきなり斬りかかられても死なないように武装を整える。モフリエルは準備を怠らない男である。

 途中心優しき10歳くらいの少女に武器屋までの道筋を教えてもらい、モフリエルは難なく武器屋に辿り着いた。

「へいらっしゃい」

「この剣をくれ。この鎧も」

「お値段はこれくらいになりますが……」

「神の世界を作るためだ。ただで提供しろ。って戦神チュールが言ってた」

「言ってねえ! ちゃんと金払え! わたしの名を出すな!」

「せっかく貴様への信仰を広めてやろうとしたのに、恩を知らぬ神だ」

「おい、冷やかしなら帰ってくれ」

 武器屋のむくつけき親父が厳しく睨むも、モフリエル慌てず騒がず。

「我が指先に出でよ、チュールの恩恵よ」

 武器屋用チュール汁アダマンタイト味。武器屋の大好物の味がする。

「あへええええなんでも持ってっていいからああああだからチュール! チュール汁お替わりいいい!」

 れろれろれろれろ。180は超えていそうなガチムチ黒光りおっさんに丹念に指をねぶられてモフリエルは心底嫌そうな顔をした。

 ともあれモフリエルは信仰に目覚めた武器屋から篤志を受け、その身に目映いばかりの武具を纏ったのである。

「チュール汁の使い方そういうんじゃねえから! お前、マジで止めろよ!」

 戦神チュールが高らかにそう告げる。それを受けてモフリエル。大いに頷くと、

「さて、では困っている定命の者共を救ってやるとするか」

「聞いてよ!?」

「お、そこにいるのは先程私を案内してくれた心優しき幼女ではないか。助けてくれた礼だ。何か困っている事は無いか?」

「実は、わたしのお母さんが最近病気がちで……」

「なるほど。では、祝福を授けよう。この汁を飲ませなさい」

「あへえええええ! 汁を! 汁をくださいいい!」

「お母さん! すっかり元気になって! ありがとうモフリエルさん! わたし大きくなったらモフリエルさんの……」

「お前自身にも祝福を授けよう」

「あへええええええ! モフリエルさまああああ! なんでもしますからああああ! お慈悲、お慈悲ををををををを!」

 嬉ションじゃー。

「なんだなんだ?」

「何の騒ぎだ、これは?」

 村の者達が奇跡の御業をその目に納めんと集まりだした。

「まったく定命の者共は恩寵ばかり求めて浅ましいことこの上ないな……だが私は世界を愛で満たす者だ。まとめて祝福を授けよう」

「「「あへえええええ!」」」

 もうメチャクチャだよ。

「た、たすけてくれええええ! おかしくされるうううう!」

「人聞きの悪い。これは福音である」

「あへえええええ!」

「お、お願いです! 人間の、人間のままでいさせてえええ!」

「怖くない怖くない。怯えていただけなんだよね?」

「こんなの酷すぎるよね?」

 戦神チュールが遠い目をして言った。それに被せるように歓喜の悲鳴。

「あへええええええ!」

 半刻も経っただろうか。

「よし、この村は制圧した。もはやチュール汁に逆らえる者はいない。以後、この村での収益の50%を私に喜捨するように。それが戦神チュールの御心です」

「そんな御心持ってないけど」

「わ、わかりました、だ、だから村長用チュール汁もっともっとおおおおお!」

 モンスターテイムする前に村をテイムした。


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