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神の恩寵

 それは神と人がより近しく生きていた時代……

 深奥の森に一人つましく暮らす少年がいた。名をモフリエルという。高貴にして徳高く見目麗しきハイエルフである。望みはささやか。

「全世界を愛で満たしてやりてえなあ、その為になら神になってやらないこともない」

 具体的にはこの世界に蔓延るモンスター全てを統合し仲良く暮らし、もって全ヒューマノイドに宣戦を布告。後に全世界を支配して人とモンスターが共存共栄できる永遠の楽土を築くというものであった。

 だが理想は高く現実は厳しく。

 モフリエルにはモンスターとフレンドリーな関係を築く能力が欠如していた。モンスターは大抵ウェーイ系である。ただの善良にして心優しきハイエルフの少年が近付いても食い物にされるだけであろう。実際、よく囓られる。頭から。

「ああ、この世の全てのモンスターをモフりてえなあ」

 そんな卑俗な欲望など一切持たないハイエルフの少年である。ただただ世界の安寧と平和を願って、モンスターを手懐けたいのだった。


  ◆


 そんなモフリエル。ある日、森の中、崩れ落ちた石碑に出会った。調べてみれば今は忘れられて久しい神のものであるようだった。

 何の神だか知りゃしないモフリエルだったがその石碑に手を合わせて願ってみることにした。暇だったので。

「どうか獣達を我が先兵として自由自在に操れるようになり好きなだけモフれますように」

するとどうであろう。

「いいっすよ」

 石碑の脇に痴女と見紛う肌色多めの女子が姿を現すではないか。

「もしもしおまわりさん? 射殺一丁」

 モフリエルは草食のハイエルフなので性的アピールには一切反応せず、倫理的に正しい行動に及ぶ。

「いやちょっと待って? 大丈夫、怪しい者じゃないから、わたし神様だから。通報しないでくれたらお菓子あげるし?」

 痴女はいよいよ不安になることを言った。

「我が名は戦神チュール! いなばの白ウサギとは妙にお友達だよ?」

「なるほど、これが狂気の神か」

 モフリエルはさもありなんと深く頷く。

「にせものなのでちょっとちがうからあんしんのかみさまだよ? さて、いと高きエルフの子の人よ……そなたは我に祈りを捧げた100万人目の信者です。よってそなたの望みを叶える能力を授けてあげましょう」

「結構です。私はもう資本主義という神様を信仰してるんで。マイアミあたりじゃ猫も牧師も教会もワシントンの顔したイコンを崇めてるんだぜ? 知らなかったのか?」

「くっさ! とっくに猫も牧師もキャッシュレスだというに! いいからわたしが授ける力を有効に使うがよいのです! そしてわたし、チュールの信徒をガンガン増やすように」

「えー、やだ。神様関係とか友達無くしそうだし」

「もとからいないじゃん」

 流石神様、核心突いた。

「だから好きなだけ獣をモフればいいのですよ……? 人とか友達とか諦めてさあ……? あんなもんみんなゴミだよゴミ。でも獣なら……獣ならあなたを裏切りません……これはその為の能力……あなたは私からの祝福、チュール汁を生み出すことができるようになりました。あなたが望むならいくらでも、その指先から奇跡のチュール汁を湧き出でさせられるのです。これを使えばどのような獣もあなたの思いのまま、好きなだけモフモフさせてくれるでしょう」

「マジで?」

「ええ。さあ、なんでもテイムするがよいのです。アビスドラゴンだろうと、永久に横たわる死者にあらねど測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるものであろうとなんでも調教してモフモフしなされ」

「じゃあお前」

「ん?」

「本当に効き目があるか、お前で試してみるわ」

 お約束。いっそ清々しい。

 そうしてモフリエル念じてみるに、その高貴なる指先から汁を出す。

 それこそは戦神チュール用チュール汁。

 戦神チュールにのみ嗅ぎ取れる馥郁たる香りを放ち、戦神チュールを大いに惑わす。

「くっ……! い、いや、ちょっとあんた、チュール汁がどんな汁かわかって言ってるわけ? わたしの汁ですよ? わたしが例えば母乳的な汁出してそれをセルフで啜ってお目々トロトロさせてたらヤバすぎるでしょ?」

「いいから飲め。上の口で飲むのが嫌なら静脈注射」

「あっー!」

 ぷすっ

 即オチ2秒。

「あへええええ! お汁! お汁ちょうだああああい!」

「汁を注射でキメてこれって怒られるだろうな」

 モフリエルはもっともなことを言った。

「ああん、お汁こぼれりゅうううううう! いやあああ、もったいなあああああい!」

 れろれろれろれろれろれろれろ。高貴なるモフリエルの指先は戦神チュールによって神々しく磨かれ、最早燦然と輝きださんばかりであった。

「ふやける。汚い。やめろ」

 それでも、チュール汁ちょうだいチュール汁! と尻尾を振らんばかりに纏わり付く戦神チュールを前にして、高貴なるハイエルフの子は深く息を吐くのだった。

「やれやれ、これだから定命の者は浅ましいな」

「えっとわたし神様なんですけど?」

「神様ってよく死ぬじゃん」

「それはハイエルフも同じでしょ? 寿命で死ぬ的な定命の者ってのは違うんじゃない?」

「じゃあ試してみるか。これ刺して死んだらお前定命の者ね」

「やめろ」

 命の危険にさらされて戦神チュールも我を取り戻せたようで何よりだ。

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