表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

挿話8 セディ

セディとアルバートの対決場面を入れ忘れていたので書きました。

よろしくお願いします。

 クレア姉様が僕の求婚を受けてくれた翌日、僕は宮廷に行くと真っ先に婚約の許可申請書を陛下に手渡した。

 すでに陛下に署名をいただいていたので、この時点でクレア姉様は正式に僕の婚約者になった。


 その報告のために僕は昼休みにバートン家に向かった。本当はクレア姉様に会えれば理由は何でもいいんだけど。


 馬車でバートン家の門の近くまで行くと、ぴたりと閉ざされた門扉の前に男が立っているのが見えた。途端に、僕は不快な気分になった。


「あの人、まだクレア姉様に纏わりついてるの?」


「バートン家があの方を門の中に入れたり、クレア様に会わせたりすることは決してありませんからご安心を」


 トニーが普段と変わらぬ淡々とした調子で言った。


 あの人、名前は何だったっけ? アルバート・ウィ何とか子爵子息? まあいいや。多分、そのうち廃嫡されるだろうって父上が言ってたし。

 とにかく、例の夜会で別の女の人とあんなことしてるのをクレア姉様に見つかって婚約破棄されることになって、それなのにあれから何度かバートン家に来ているらしい。


 アルバートは何やら門番たちと揉めている様子だった。僕に気づくと目を見開いている。


 バートン家の門番は、馬車の家紋と窓から覗いた僕の顔を見ると、急いで門扉を開けて馬車を通してくれた。もちろん、アルバートの目の前ですぐに門は閉ざされた。


 僕は馬車を降りると、門を挟んでアルバートと向き合った。アルバートはギロリと僕を睨んだ。怖い怖い。


「何してるんですか? こんなところで無為な時間を過ごすより、少しはお仕事でもしたほうが良いのではありませんか?」


「おまえこそ、そんな格好でこんなところに何の用事だ?」


 僕の格好というのは宮廷服のことだ。


「私は昼休みに大事な婚約者に会いに来ただけです」


「婚約者?」


「今日からクレア、は私の婚約者になりました。すぐに妻になりますけど」


 まだ呼び捨てに慣れなくて、つい「姉様」と口にしそうになった。でも、この人の前で堂々と「クレア」って呼べるの気持ち良い。


「はあ? ふざけるな。あいつは昨日までは俺のものだったんだぞ。何だかんだ言って、あいつも婚約者以外の男とよろしくやってたってことか」


 アルバートは門扉がなければ殴りかかりそうな勢いだった。

 逆に僕は冷静になる。クレア姉様の婚約者に相応しい紳士として対応しないとね。


「あなたと一緒にしないでください。クレアがそんなことするわけないでしょう。婚約者がいるからと、とっても私につれなかったんですから。婚約破棄が認められて、ようやくですよ」


「昨日の今日で婚約しておいて、何がようやくだ。おまえがクレアに横恋慕してたのはわかってるんだからな」


 アルバートの言葉に僕はイラッとした。


「私の婚約者を『クレア』と呼ぶのはやめてください。あなたにクレアの名前を口にしてもらいたくないけれど、どうしてもの時は『バートン伯爵令嬢』にしてください。すぐに『コーウェン次期公爵夫人』になりますけどね」


「次期公爵がわざわざクレアなんか選ばなくても相手はいくらでもいるだろうが」


「いませんよ。クレアが私の唯一です」


 僕の当然の即答に、アルバートが目を瞠った。

 わかってないみたいだけど、横恋慕はそっちのほうだ。クレア姉様と僕は、僕が生まれた時からの仲なんだから。


「あなたこそ相手はいくらでもいるではないですか」


「俺の妻になるのはあいつだけだ」


 アルバートの言葉に、虫酸が走った。でも、それを表に出すのは堪える。あくまで紳士らしく。


「そんなはずありません。あなたは見た目も頭の中もふんわり軽そうな女性なら誰でも良いんですよね?」


「は?」


「この前の人も、他に付き合ってる人たちも皆そんな感じなんでしょう。それから、歳上なら尚良し、でしたか。クレアとは全然違いますね」


 さすがに父上が信頼するだけあって、彼らは瞬く間にアルバートのことを調べ上げてくれた。アルバートが仕事するより女の人と過ごす時間が長いような人だったからっていうのもあるだろうけど。

 そこまでクレア姉様のことを蔑ろにしておいて、今さらよくバートン家に顔を出せるな。相手にしてもらえないのは当たり前だよ。


「その中から好きな人を選んで婚約でも結婚でもすればいいではないですか。確か、男爵家のひとり娘とかもいますよね。婿入りすれば貴族社会に残れますよ。ああ、歳下だから駄目かな」


 何となくアルバートの顔色が悪くなってきた気がする。もう帰ればいいのに。

 僕も貴重な時間をすっかり無駄に使ってしまった。早くクレア姉様に会いたい。


「とにかく、あなたをクレアに会わせるつもりはまったくありません。もし今後、あなたがクレアに関わろうとしたら、僕も積極的にあなたの人生に関わりますからそのつもりでいてくださいね」


 僕は敢えて笑顔で言った。だけど、アルバートはますます顔色を変えた。

 正直に言って、まだ僕に何ができるのかわからないけど、クレア姉様を守るためなら何だってするつもりだ。そのへんもこれから父上に教えてもらおう。


 アルバートがやっと門から離れ、慌てた様子で近くに停めてあった馬車に乗り込んだ。

 できれば2度と顔を見たくない。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ