挿話6 コーウェン公爵
ひとり息子から結婚したい相手がいると告げられたのは、帰国してからわずか5日後のことだった。
「クレア姉様とは、バートン伯爵の令嬢のことだな?」
私の確認に、セディはコクリと頷いた。
外国にいる間もセディはしょっちゅう「クレア姉様」と口にしていた。センティア校に入ってから私たちに送ってきた手紙にも、毎回その名が書かれていた。
しかし、結婚相手として意識しているとまでは思っていなかった。クレア嬢に再会したことで、セディ自身もその気持ちに気づいたのだろうか。
「4つ歳上の伯爵令嬢は駄目?」
セディがジッと私の顔を見つめた。
「いや、別に構わんが」
帰国し、セディの宮廷入りも決まり、次は結婚相手を探さねばならないと思っていたが、セディに意中の令嬢がいるなら是非その人を嫁に迎えてやりたい。
大切なひとり息子を任せるのだから、一応、身辺を調べる必要はある。だが、バートン伯爵の娘ならおそらく問題はあるまい。
私の答えに、セディは安堵の笑みを浮かべた。
「ちなみに、今はクレア嬢とはどんな関係なんだ?」
「クレア姉様に結婚しようって言ったら、婚約者がいるから駄目って言われた」
「……婚約者がいるのか」
セディより4歳上なら当然か。むしろ、結婚していなかったのが僥倖なのかもしれない。婚約者くらいどうとでもなる。
私が手を出してしまえば早いが、将来のことを考えて、ここはセディ本人にやらせてみるか。
「まずは情報収集だな」
「情報収集?」
「クレア嬢の婚約者のことをできるだけ詳しく調べるんだ。そうすれば、自ずと自分が次にすべきことも見えてくるはずだ」
セディはコクコクと頷いた。
「必要なものがあれば用意してやろう。人でも金でも言うといい。わからないことはいくらでも教えるから、訊きなさい」
「うん。ありがとう、父上。情報収集やってみるね」
セディは軽やかに私の前から去っていった。
それにしても、小さくて可愛いかったセディが、すっかり成長しても可愛いままの我が息子が、もう結婚か……。




