一
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「――で、なにを困ってるんだ?」
「実は今、僕は――あっ! 僕はヒュダトスと申します」
「アンタ名前あったのっ!?」
「あるに決まってるでしょっ!!」
「いや。スマン、スマン。そうだよなー」
ついつい異世界転移者特融のクセが、ゲームのシステム関連の職にいた人があまり日常生活をおくっているイメージができないクセ。
王様のその最たるモノだ。
元々、王族との接点がないうえにたまにしか会えないせいか、セーブポイントとか復活ポイント、支度金をくれるオッサンなどなどのイメージが強い。
「――それで今は王都銀行の総責任者をやっておりまして……」
「お、王都銀行……それならお金が有り余ってんじゃないのか? 俺なんかに相談するより神殿騎士に相談するなり、私兵を雇うなりして解決したらどうだ?」
「と、とんでもないっ!? 平民出という事で賃金なんて下っ端のときとほとんど変わらないですよっ! 責任ばっかり大きくなってなに一つ良い事なんて……正直、今では後悔してるんですっ!」
大仰な身振り手振りでそう話す。
「そ、それにじ、実は――王都銀行の責任者に平民を就けるのは今回が初ってワケじゃないんですよ」
「そうなの?」
「ええ。僕も最初は大喜びで即答即決したんですが……そもそも先月まで僕はまだあの預り所にいたんですよ、それがいきなりですよ! いきなり王都銀行の責任者ですよ。理由もなく」
「それは……アヤシイな。でもさ――ほら、勇者の活躍に貢献したのが今になって評価されたとか?」
「二〇年も経ってですか?」
確かに遅すぎるよな……。
「それだけじゃないんです」
そういって預り員――ヒュダトスはいくつかの目録を見せる。
「それを見ればわかっていただけると思います」
目録にはいくつかの名士の名前と品目、預り入れと渡し日が記載されていた。
「正直サッパリわからん」
「えぇ! このお金の動きや――物の動きを見てくださいよ!」
そういって帳簿の数か所を指す。
「確かにあんまり持ち出された事のない倉庫から革鎧やショートソード、短剣類がでてたり、金もいつもより一桁多いが……」
「そうです! それですよ!!」
「それが一体?」
「先ほどの申した通り平民が王都銀行の責任者に抜擢されるのは今までにも何回かありました」
「――その全員がこんな感じに金と物資が移動した後、強盗に入られているんですっ!」
「偶然じゃないのか?」
「そんな事ありません! きっと――」
そこで声を落とし、顔を近づける。
「貴族連中が僕に――」
「王都銀行を襲う貴族?」
「自作自演というやつですよ」
「なんでワザワザそんな面倒な事を?」
「いいですか。国庫にあるからといっても貴族連中の好きなようにできるワケじゃないんです」
「そーなのか?」
「ええ。なので平民を責任者に据え賊に奪われたとすれば難なく私財にできるというワケなんです」
「そんなロコツな事するか?」
「人の流れもわかればもっと具体的な日付までわかるんですが……」
悔しそうに言う。
「んじゃ、そこら辺は俺が調べてみるよ」
そういって心配性な依頼人を落ち着かせる。