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Day.5-11 辿り着いた答え

3:31


「キアヌ・リーブス!?

 誰なんだね、君は?」


 ヨハネ・ドミナトゥス大将は未だ混乱中の様子だ。俺とは初対面だし、しかもこんなラフな格好で酒飲みながら現れたら誰だって訝しむ。

 ちなみにここで酒を追加したのはなんかカッコつけたかったからです。煙の中から弓持って酒飲みながら男が出てきたら絵になるっしょ?


「イリヤさんの知り合いですよ」


「イリヤの!?

 彼女はいまどこに?」


「北棟、異世界転移者達を助けに向かっているようです」


「そうか……何者かは知らないが本当に助かった。

 ありがとう」


 ヨハネ大将は深々と頭を下げた。


「いえ、そんな。

 それより早く城から脱出を」


「うむ、そうだな」


 生き残ったのは3人、ヨハネ大将とその執事らしい初老の男、そして若い兵士だ。


「状況はどうなっている?

 君は知っているか?」


「だいたいわかってますよ。

 他の大将はもう逃げましたか?」


 アルコール・コーリングは会話をしながら裏で展開中。

 イリヤさんはいよいよ転移者達の部屋へ迫っている。

 

 にしても連中……気を抜きすぎだろ。

 呑気に雑談なんかしてんじゃねぇよ。

 部屋の外にも窓の外にも、敵が続々と集まってきているのに。


 と、イリヤさんがこちらの爆発に気づいたようだ。

 視線を送っている。


 俺は爆発でガラスが吹き飛んだ窓へ近づき、大きく両手を振った。

 大雨で視界不良ではあるが、向こうの棟から俺の姿が見えるだろうか。

 イリヤさんは窓際の通路に立っているから、視力次第では見えるかもしれない。


 そして、というかやはり、女剣士は視力もズバ抜けていた。

 手を振り返している。


 距離が遠すぎて俺の声は届かない。

 だがイリヤさんは、


「中央大聖堂で合流しよう!」


 と叫んでいた。


 俺がスキルを発動していることを、予測しているのだ。

 中央大聖堂、か。


 俺は両腕を頭上で合わせて〇を作った。

 伝わったよ、という意思表示だ。


 背後を振り向き、ヨハネ大将に告げる。


「中央大聖堂って場所わかります?」


「4階だ。

 北棟と南棟を繋ぐ、サンロメリア城のちょうど真ん中に位置する兵士たちの為の聖堂だ。

 それがどうした?」


「イリヤさんが、そこで合流しようと言ってます。

 多分、転移者達を連れてくるつもりでしょう」


「なるほど、待ち合わせにはいい場所だ。

 だがその前に王子たちや他の大将の安否を」


「王子たちはジューク・アビスハウンドが既に城の外へ退避させてくれました。

 他の大将はまだ、どうなっているかわかりません」


「そうか、王子たちは無事だったか。

 ジュークも、目を覚ましたのだな、一安心だ。

 そこで少し待ってくれ、他の大将へ繋いでみる」


 しばし無言で待つが、ヨハネ大将のホマスはどこへも繋がらず。


「ダメだ、スペリオルもラガドも、出ない」


 俺はスペリオル大将とは会った事がない。だからアルコール・コーリングでサーチできない。

 ラガドは、もうあの顔は忘れられないだろう。

 俺は内心、この機会にパラディフェノンに寄生されてしまえなどと思っていた。

 でもまぁ、乗り掛かった船だ、一応、“聴いて”やるか。


 ラガドへ、聴覚を飛ばす。

 すぐに、寄生魔獣特有のシュルシュルという音が聴こえてきた。

 これは……手遅れか。


 ラガドは安楽椅子に腰掛け、一人でグラスに注いだ酒をちびちびと飲んでいるようだった。

 その顔面にいくつもの触手のうねり。

 間違いなく、やられている。

 ざまぁみろ、だ。


「ここからスペリオルの部屋は近い。

 様子を見に行こうと思うのだが」


 ヨハネ大将が言う。


「はい、そうしましょう」


 ラガドについては敢えて伏せておく。言ってしまえば俺がなぜそんなことを知っているのかと尋ねられるかもしれない。問答に割く時間は惜しい。俺は動きながらパラディフェノンを操っている“支配株”を見つけ出さなくてはならないのだから。


 自分たちの足音の反響を取っ掛かりとしてアルコール・コーリングを展開。周囲を索敵。この階層の連中はみんな吹っ飛ばしたが音で気づかれたか、下の階層からどんどん連中が上がってくる。全員相手をしていては面倒だ。矢が足りなくなるだろう。


「こっちだ」


 ヨハネ大将が先んじて階段を下る。


 俺は追従しながらいつでも打てるように弓へ矢を番えておく。


「君、弓を扱いは得意なのか?」


 ヨハネ大将の執事と思しき初老の男が並走しながら訊いてきた。


「最近上達しました」


 と、答える。事実だしね。


「私はノルド、ドミナトゥス殿の執事をしている」


「キアヌ・リーブス、イリヤさんの知人です」


「あのイリヤに認められたというのは君、相当な事だよ」


 ノルドさんが言う。イリヤさんの評価は誰に聞いても高い。その知り合いというだけでなぜだか俺の評価まで上がってしまう。


 と、集結してくる気配が俺たちのいる階へ。


「大将、待ってください!」


 素早く、警告を。


「ん、どうした?」


「その先へ行くのは無理なようです」


「なぜ?」


「奴らが、来ます!」


 俺は大将の前に出て、弓を構える。


 前方の、壁に埋め込まれた燭台から漏れ出る薄明かり。それは外からの風に煽られ酷く頼りなく揺れている。更に奥、わだかまる闇から連中の影がゆらりゆらりと立ち現れた。


「数は……30以上、俺の今の手持ちの矢は18本。

 全員は倒しきれません。

 どこか、別の道を!」


「君は……なぜそんなことがわかる!?」


「なぜかって?

 ご想像にお任せします。

 ですが、嘘は言っていません。

 ヨハネ大将、ご判断を!」


「ううむ……しかしユリウスはこの先の尖塔に」


「いや、ドミナトゥス殿、あれを!」


 ノルドさんが叫ぶ。指先に、恰幅のいい中年男性の姿。顔面からいくつもの触手を飛び出させながら、先陣を切って向かってくる。


「あれは、ユリウス!?

 手遅れだったというのか!?」


 そうか、あれが……。

 

「大将、攻撃許可を!」


「……あぁ、許可する。

 楽にしてやってくれ」


 悲痛な声。

 次々と失われてゆく仲間。しかもその命を奪うのは、自分たちだというこの悲劇。


 俺は、この世界の人々に対してそこまで特別な情は抱いていない。一部を除いて、だが。

 だから、矢を放つことが出来ている。そうしなければならないという使命感で無理やり殺人行為を自分自身に納得させている面はあるが。

 

 人殺しなんか、淡々と実行できるものではない。

 俺を突き動かしているのは怒り。

 こんな事態を招いたものに対する、言い知れぬ怒りだ。


 帝国を守るためにその命を捧げた崇高な者達を、その想いを土足で踏みにじるものに、絶対に一矢報いてやる。

 俺はその為にここへ残った。

 

 許せ、とは言えない。

 許されざる行為を、俺はしている。

 

 人間が、人間に対して武器を向けている。

 因果は巡ってくるだろう。

 やがては俺自身に、人殺しの罰は返ってくる。


 そうだとしても、俺は手を止めない。

 イリヤさんが、戦っているから。

 あの人と共に過ごしたこの数日間が、俺の背中を押している。

 守れ━━━━その力がお前にあるなら。


 アルコール・コーリングだ。


 矢を、放つ。

 

 怒りの中にあっても決して失われぬ正確無比な軌道。

 スキルによる超・聴覚のフィードバックから導き出される着弾点。


 ユリウス大将の口腔内へ、矢が突き刺さった。


 立て続けに数発を打ち、先頭を歩く寄生兵士達を怯ませる。

 4本の矢をここで消費。

 足並みを乱した上で、燭台を打ち落とし小さな火を床に発生させた。


 俺は壁際に置かれた(かめ)を拾い上げた。さっき使わなかったもう一つの甕。


「あんたらの死を、決して無駄にはしない。

 安心して、眠ってくれ!!」


 甕を投擲、ユリウス大将の頭部に当たって割れ、中身の油が撒き散らされた。途端に火の手が一気に上がり、炎の絨毯が歓迎の舞いを踊る。


「火は奴らの弱点です。

 これで道は塞ぎました」


「……すまない。

 君にこのような嫌な仕事を押し付けてしまって。

 本来なら大将である私の役目だ。

 しかし私には、そこまでの力はない」


「適材適所、ですよ。

 ヨハネ大将の仕事はこの後でしょ?

 ここから脱出したら、生き残ったみんなをまとめあげるのが、あなたの仕事だ」


「……あぁ、そうだな。

 ユリウスが死に、ラガドとは音信不通、彼ももうダメかもしれん」


 ラガドがダメなのは、俺にとって既知のことだ。

 今改めてスキルで確認してみても、奴は部屋から一歩も動かず触手をウネウネさせている。


 ……ん?


 一歩も動かず、だと?


 いや、ちょっと待てよ。俺は何か重大な事実を見落としていないか。

 寄生魔獣パラディフェノンの生態を、今一度思い出せ。


 さっき“透聴”した時も優雅に酒なんか飲んでたみたいだけど、他の寄生された者達の中でそんな行動を取っていたものが一体でもいたか?

 いや、奴らにとって繁殖行動以外の行動は何の意味も持たない。原生生物のように単純に、ただ自身のコピーを増やすためだけに……。


 ラガド、こいつだけなぜ動かない?

 なぜ?


 ━━パラディフェノンは“支配株”の命令によって動く、働きアリみたいな存在なわけ。

 ━━つまり女王アリが城のどこかにいるんだよ。

 ━━人間に同化しているからね、見た目はほとんど人間のままだよ。

 ━━知能も、その人間に準じる。

 ━━パラディフェノンの活動が活発になるのは、雨の日なの。


 ジュークの言葉が頭を過ぎる。

 そして昨日の、王立図書館での一件。


 ディジーさんによって作られた自動人形(オート・マータ)ポルカはなぜ、ラガドに飛び掛かったのか。

 あれだけ高性能なプログラムを搭載した兵器が、あんな単純なミスをなぜ犯したのか。


 エラーではないのだとしたら。

 あれが、“正常な動作”だったとしたら。


「まさか……そうか、そういうことだったのか!!」


 ヴァルト・ラガド、あいつこそが寄生魔獣パラディフェノンの“支配株”だ!!


3:50


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