Day.1-7 レベル99
「もうすぐ、ロメール帝国領に入る」
馬車の荷台の中でイリヤさんがそう告げる。
ロメール帝国、この世界で最大の領土を誇る国家らしい。イリヤさんは帝国軍に属する剣士だと言っていた。
ギョビュルリンを退治し捕まっていた村人を送り返した後、俺たちは道中で馬車を雇いここまで移動してきた。
改めて、従者を誰も引き連れずに単身やってきて難なくギョビュルリン達を制圧して見せたイリヤさんに、驚きを禁じ得ない。
ロメール帝国へと続く道すがら、俺たちはいろいろと会話をしていた。
俺はこの異世界へやってきて今日が初日だからわからないことだらけだ。
「ロメール帝国は広大な領土の中に複数の種族・民族・宗教を内包した国家だ。
ロメール王の下、多くの民が平和を享受している」
「へぇ……でもさっきのギョビュルリンみたいな蛮族もいるんですよね?」
「あれは帝国の直轄地ではない領土に棲む種族だ。
本来、人間との間には不可侵協定が結ばれていて、奴らは動物を獲物として細々と暮らしているはずなのだ」
「でも、なんか別のやつと契約したとか」
「人間よりも強い相手、と言っていたな。
それについては早急に調査する必要がある。
奴等は人間と同じく定住生活を行う種族だ。
あの場所からすぐによそへ移ることは出来まい。
帰ったらすぐにでも軍へ報告し派兵させる。
ギョビュルリンへの裁きは私の権限では決められない」
「今回みたいな反乱?ってのはよく起きるんですか?」
「滅多にない。
いや……滅多に無かった、と言った方がいいか。
このところ帝国領内において小さな反乱は増加傾向にある。
人間以外の種族が、暴動を起こす事件が相次いでいる」
「ギョビュルリンが言っていた“人間より強いやつ”が関わっているんでしょうか」
「わからん。
そういう調査は私の専門ではない。
が、繋がりはありそうだがな」
イリヤさんはそう言って窓の外を見た。
だんだんと道は石造りできちっと舗装されたものに変わってきている。
都市が近いのだろう。
イリヤさんのやや憂いを帯びた横顔もまた美しい。本当に作り物みたいだ。そういえばさっきの村の人たちもみんな顔立ちはそこそこ良かった。この世界の住人は美男美女ばかりなのかもしれない。
「ところで俺みたいな……異世界転移者はよく発見されるんですか?」
これは是非とも聞いておきたいことだ。イリヤさんは俺の話を妙にすんなりと受け入れていた。絶対に、俺と同じような転移者が他にもいるはずだ。
「国防に関わる内容は機密扱いだ教えるわけにはいかない……と言いたいところだが、どの道お前はこの後軍の会議に出席させられることになる。
そこで、他の転移者と顔を合わせることになるだろう」
「あ、じゃあやっぱり」
「お前の他にも若干名、存在する。
転移者は最近になって発見されるようになった。
最初の者は確か5フトゥムほど前に……」
フトゥム!!??
謎のワードがまたしても現れたか。
「あ、そうだ」
イリヤさんは突然何かを思い出したように腰に提げていた麻袋をゴソゴソ探り始めた。程なくして、長方形の石版のようなものを俺に差し出してきた。
「これを渡しておく」
「え、何ですかこれ」
「腕に着けてみろ」
言いながらイリヤさんは石版を俺の右腕の手首の近くに触れさせた。
途端に謎のアームがぐいーんと伸びてきて俺の手首に石版を固定した。まるで大きめの腕時計みたいに。
「うわっ!何なんですか!?」
「いちいち聞き慣れない言葉ばかりだと意思疎通が不便だろう。
その石版は魔導アイテムだ」
「魔導……アイテム?」
「その名も、“ホマス”」
「ホマス……」
何だろ、どっかで聞いたことがある気がする。
何か、結構身近なアイテムの名前に似ているような……。
「帝国に属する発明家が作った道具だ。
お前の言葉を自動で翻訳してくれる。
逆に私の言葉も、お前に馴染みの深い言葉へ変換してくれる」
「自動翻訳機!?
スゲェ!!」
ブゥーン、と低い音がして石版が輝き出した。謎の文字列が表示される。日本語ではない。英語でも、当然ない。この異世界独自の文字だろう。だが俺は感覚的にそこに書かれているものが理解できる。
起動中、と。
「異世界からやってきた者には皆、支給されている。
それと、ホマスには他にも様々な機能がある。
今のうちに説明しておこう」
ホマスが起動した。メイン画面上にいくつかのアイコンが表示されている。
あぁ……俺はようやく気づいてしまった。
これはアレだ。いまや世の中のほとんどの人間が持ってる、携帯するアレだ。
異世界転移はホマスとともに!
「ホマス上に登録された相手とならどれだけ距離が離れていても話をすることが出来る。
まぁ魔導通信網が張り巡らされている場所限定ではあるが。
そしてホマスには様々な人物や店から定期的に情報が送られてくる。
たとえば商店の安売り情報であるとか、ハンターギルドからの依頼とかだな。
だがそういう情報を受け取るためには相互に相手のことをホマスへ登録しておく必要がある。
ホマスは大気中に存在する独自の周波数を持つ魔力に反応して相手を特定しているからだ」
なぁ~るほど、要するにアレと同じなわけだ。こりゃ便利なアイテムだ。
魔導通信網ってのは多分、こっちで言う電波の届く範囲のことだろう。
「それと、現時点での自分の実力を具体的な数値で測ることも出来る」
イリヤさんは俺のホマスのアイコンをタッチした。剣のマークのアイコンだった。
すぐさまデータが立ち上がり、いくつかの数字が画面に浮かんだ。
「これはッ!!!?」
現在のあなたのステータスは……
LV:99
体力:999
物理攻撃力:999
物理防御力:999
魔法攻撃力:999
魔法防御力:999
速度:999
ポ○モンじゃねぇか!!
っと、それはさておき、
カ……カンストしてやがるッ!!!
これだ、これなのだ。
これぞ異世界の醍醐味!!
何だよ何だよ神、チートスキルとか言って微妙すぎる能力を渡された時はほんとうにどうしようかと思ったが、蓋を開けてみればこれですよ。
何だ、基礎スペックがそもそも最強だったのだ。
はじめからわかってたら、さっきのギョビュルリンなんか俺がコテンパンにしてやったのによ。
「ほぅ」
イリヤさんが数値を覗き込んで言った。
なんだ、リアクションが薄いじゃあないか。
もっと驚いたっていいんだぜ?
それか俺に惚れてもいいんだぜ?
「イリヤさんはステータスどれくらいあるんですか?」
「LV:3000で各能力20000くらいだ」
ズコーーーッ!