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Day.4-17 究極完全体ポルカ

 地上数十メートルはあろうかという高さからイリヤさんは何の躊躇もなく飛び降り、尖塔を蹴って落下位置を調整、渡り廊下の手摺を蹴って更に角度をつけ、斜めになっている屋根へ着地、そこを駆ける。


 絶叫系の乗り物が全然ダメな俺はもう……端的に言って死ぬかと思った。心臓が早鐘を鳴らしているし、足が震える。


「どうだ、爽快だっただろう?」


 やたらと明るい声でイリヤさんが訊いてくる。


「こ、こ、こ、このくらい、どうってこと、ないっすね!」


「声が震えてるぞ!」


 言いながらイリヤさんは屋根を蹴り宙を舞った。その強靭な脚は北門側のゲートを軽く飛び越えサンロメリア城をぐるりと覆うように走る大通りへと軽やかに降り立った。まるで体重を感じさせない静かな着地だ、さすがは帝国随一の女剣士だ。


 で、俺はふにゃりとその場に崩れ落ちた。


「あれがそうか」


 遥か視線の先、巨大な物体が目視できた。

 ポルカは、周辺の瓦礫を次々と集めてどんどん巨大化していく。


「おい、そこの兵!」


 イリヤさんが馬車に乗り込みポルカの方へと向かおうとしていた数名の兵士を呼び止めた。


「はっ、これはレーヴァティン殿!

 出動されるのですか?」


 ビシッと両足を揃えて兵士は敬礼する。その時、チラッとこっちを見て驚愕の表情を浮かべたのを俺は見逃さなかったっていうか、見逃しようが無いほどあからさまに驚いていた。


 そりゃあ、ね。

 俺はめくれ上がっていた帽子のヴェールをさっと下げた。


「すまんが、そこの奴と私も便乗させてくれないか?」


「はっ、かしこまりました!

 どうぞ、こちらへ!」


 って俺も!?こんな格好なのに!?

 てっきりイリヤさんに背負われたまま現地入りかと思っていたよ。


 これはアレだろ、羞恥プレイってやつ。

 だが俺がそんな簡単に主導権を譲り渡すとでも?

 恥ずかしがるから恥ずかしいのであって、恥ずかしがらず堂々としていれば羞恥プレイは成り立たないのである。


「ごめんあそばせ」


 俺は胸を張って荷台に乗り込んだ。

 先に座っていたイリヤさんの隣へ。

 そして優雅に足を組む。


 対面の座席には3名の兵士が座っていたが、みんな口を半開きにして固まっていた。


「ジロジロ見てもいいもんじゃないぞ、気にするな」


 兵士達へイリヤさんが半笑いで言う。


「イリヤさん……何ニヤけてるんですか!?」

 

「いや、普段通りだが?」


「今、表情直しましたよね?」


「ずっとこの顔だが?」


「じゃあその顔のまま、俺の全身を改めて眺めてください」


「あぁ、構わないがブフォッ」


 女剣士はたまらず吹き出した。

 俺とイリヤさんの漫才を唖然と見詰める兵士。

 シュールとはこういうものである。


「おふっ、さっさと、出発しろ!」


 ツボに入ったのか肩をヒクヒクさせながらイリヤさんが叫ぶ。なんとかシリアスな状況にしないと堪えられないのだろう。

 そこで俺はここぞとばかり追撃してみることにした。


「ほらほら、脛毛を中心に見てください!脛毛を!」


「行け、馬車を出せ早く!」


「何なら無精髭と腋毛も見てください!

 どうぞ遠慮なく!」


 車内が異様な空気に包まれてゆくのがわかるが、俺はむしろこういう状況は願ったり叶ったりである。

 向こうの世界でも俺は酒を飲むと無敵になれるタイプの人間だった。まぁ多少やりすぎて猥褻物陳列罪で警察にしょっ引かれそうになった時は反省したけれど。裸踊りマスターを舐めてもらっては困るのである。


 さて、このような汚らしい場面がずっと続くと俺は楽しいが読者が辟易するのでそろそろ場面転換をするとしよう。愉快な掛け合いはこの辺で終了だ。


 馬車は猛スピードで街路を行く。

 立ち塞がるのは、もはや城壁を遥かに超える高さにまで成長したポルカだ。


「実際問題、一撃で倒せるんですか?あんな巨大な奴を」


「さぁ……どうだかな」


 イリヤさんは険しい表情でポルカを睨んでいる。自信満々、というわけにはいかないか。


 馬車がポルカへ近づきだんだんと減速を始める。

 足下まで接近するのは危険すぎる。


「このあたりでいい。

 停めてくれ」


 イリヤさんは馬を駆る御者に告げる。

 馬車が停止して降車しようとする兵士達を、イリヤさんは手で制止した。


「お前たちは戦闘に参加しなくていい」


「はっ、それはどういう意味でしょう?」


 きょとんとして兵士の一人が訊く。


「あいつは、磁力を操る。

 お前たちのその装備では、まともに戦えない」


 この情報は兵士達には共有されていないのだろう。伝達する時間も無かっただろうし。 

 

「何と!?それでは我々は何を?」


「付近の市民の避難誘導だ。

 とにかく北門周辺から出来るだけ遠くへ避難させろ。

 この一帯は、石造りの家屋が多い」


「かしこまりました、しかしレーヴァティン殿とそちらの御仁だけであの巨大な魔物の相手をされるのですか?」


「この私に余計な気を回さなくていいぞ。

 付近住民の避難及び負傷者の救助だけに専念せよ」


「はっ!」


 兵士達は敬礼してから降車し、周囲へ散開した。

 俺とイリヤさんが降り立った時、そこはもう見るも無残な有様だった。


 破壊され尽くした街、地面に転がる兵士達、それらを睥睨(へいげい)するポルカ。

 そしてポルカの足下に寄り添うようにして立つ、ディジーさんの姿。


「ディジー、何をやっている!?」


 イリヤさんの怒声に反応し、ディジーさんは妖艶に笑った。

 目の焦点が、定まっていない。

 本人の意識は、閉ざされているのだろう。


「見て、私の最高傑作を。

 これが、これこそが究極の兵器……この街の全てを破壊し、取り込み、ポルカは無限に成長するわ」


「こんなもの、さっさと停止させろ!

 王都を、滅ぼすつもりなのか!?」


「イリヤさん、無駄です。

 操られているんですよ、術を解かないと!」


「どうすればいい!?」


「まずはポルカを何とかしなくては!」


 アルコール・コーリングだ。

 ポルカへと聴覚を投げ掛け、機構の奥深くを探る。

 どういう仕掛けで動いていて、どこにその源があるのか。


 人間の限界を超越した“地獄耳”が、ポルカの駆動音を解読してゆく。

 元は子犬程度の機械だ。その小さなボディにエネルギーを供給していたのは、一つの魔導石だった。

 あれの場所を特定できれば……。


 魔導石を、発見。

 二足歩行のロボットのようなフォルムへと変貌を遂げていたポルカの、右膝に当たる部分。

 いや……それだけではない。

 左膝にも、腰にも、両腕にも、頸にも、頭部にも、他にもまだいくつか魔導石が埋まっている。

 ポルカに使われていた魔導石は一つだけでは無かったのか!?


 いや……違う!

 空だ!


 王都の上空には無数の魔導石が浮かんでいるのだ。

 ホマスを用いた魔導通信網の為に設置された魔導石、それをポルカは磁力を使って組み上げた即席のアームを使って掴み取り、ボディへと無理矢理取り込んでいる。


 魔導石に蓄えられた魔力を磁力へと転換し、本来の性能以上にパワーアップさせているのか。

 あの魔導石一つ一つがポルカにとっての動力源になっている。


 ということはポルカを放置すればいずれ空に浮かぶ全ての魔導石を喰らい尽くし、膨大なエネルギーによって更に肥大化し……これは相当に、笑えない事態だ。


「おい、押し黙るな!

 方法を教えてくれ!」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 焦るな。

 何か、打開策を。


 動力源は無数にあるとして、ポルカの知能を司る部分は一体どこにあるのか。

 魔導石には、電池のようなエネルギー貯蔵の用途ともう一つ、パソコンのような情報処理の用途がある。

 これら二つの用途を、一つの魔導石で担う事は可能なのか。


 王立図書館でのディジーさんとの会話を思い出す。

 あの時ディジーさんはポルカから抜き出した魔導石について、磁場を発生させたり金属の磁性を変化させたりする機能が組み込まれている、と言っていた。

 これは、あの魔導石が一つで二種類の用途を内包していることを示している。


 肝心の、ポルカの知性を司る魔導石はたった一つしかない可能性が高い。

 それを特定し破壊するか奪還することが出来れば、ポルカを停止させられるはずだ。

 問題はそれがどこにあるのか、だ。


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