Day.4-16 女装を纏うもの
ジュークのホマスがけたたましい音を発した。
素早く通話に応じるジューク。
「……うん、こちらも把握しているよ。
……了解、イリヤもここにいるから彼女にも伝えておくよ
……はいはい、それじゃね」
俺は支度している最中だった。
女装するのはこの際涙を飲んで受け入れるとして、俺とジュークとでは服のサイズが違いすぎる。ジュークの服では窮屈すぎるし肩のところがつっかえて入らないのだ。
「ヨハネからの通信だよ、北門の異変に気付いたみたいだね。
私にも魔導師を手配するように言ってきたよ。
ま、普通の相手じゃないのは一目瞭然だからね」
「私もすぐ出撃する。
おい、もう行けるのか?」
そう言うイリヤさんは、宝塚みたいなゴテゴテの刺繍が入った上着と七分丈のズボンを着用していた。こういうのがまた、似合うんだよなぁイリヤさんって。
そして俺は……。
「ぐぐっ……はい……着替えました(震え声)」
我ながら素晴らしい格好だ。
男の俺でも何とか着られる服を模索した結果……おお、親愛なる読者の皆様、以下の描写でおわかりであろうか?
黒色で、肩から鎖骨のラインにかけて透明なレースがあしらわれたオフショルダードレスである。背中が靴紐みたいにレースで網掛けされていて括って止めるタイプなんだけど、うまく止まらなかったので適当に穴通して放置。そのままでは肩からどんどんずり落ちてしまうので泣く泣く、肩紐が透明なブラを中に着用しました。
無駄にオシャレ、そして事の成り行き的にジュークのカップ数まで分かってしまったが何一つとして嬉しくねぇ!
「おっ、そんな着こなししちゃってー!
ドレスの丈が足りないから動くとパンツ見えちゃうよぉ?」
「ぐぬぬ……」
ジュークがめちゃくちゃ愉快そうに笑っている。
ドレスは当然ジュークのサイズになっているので俺が着ると腰のところがかなり窮屈であり、長さも足りず膝上10センチくらいのミニスカート的なシルエットになってしまう。
扇情的な格好だな、着てるのは単なるオッサンだけど!
「お、おま……もうちょっと何か、無かったのか?」
言葉に詰まっちゃってるよイリヤさん。
「他に着られる服は、何もありませんでしたぁ!」
慟哭し、嗚咽する。
こんな仕打ち、酷すぎるよ俺の異世界……。
「……じゃあ行くか」
「……まさか本当にこんな格好で外へ出なきゃいけないんですかね?
ホマス繋いでくれたらアルコール・コーリングでここから指示出せますけど」
「つべこべ言うな!」
「ひえっ」
相変わらず強引だこの人……まぁ俺もわざわざ着替えたのだからついていくけどね。
「一応、顔は隠しておこうね」
ジュークは俺の頭に帽子を被せてくれた。つばの広い黒色の帽子で前面にヴェールがあって多少は顔を覆い隠してくれる。まぁガタイがモロに男子なんだけど……脛毛結構生えてるし。
そしてさりげなく背後へ回り、レースの紐を結んでくれた。背中の肉がぎゅっと引っ張られるし、窮屈すぎて呼吸が苦しい。
「これでよし、さぁ行ってらっしゃいお二人さん!」
「ジューク、お前は来ないのか?」
イリヤさんが訊く。
「私は少し準備をしてから行くよ。
倒せそうなら私の到着を待たず片付けちゃってね」
「そうか、わかった。
お前の出番が無くて済むように迅速に始末するとしよう」
イリヤさんとジュークは互いに頷きあう。
「では、急ぐぞ」
「はい」
俺ももう覚悟を決めた。どんなに滑稽な姿でも、それは俺だ。等身大の自分を受け入れよう。服は等身大じゃないけどな!
ジュークが窓を開けた。
ん?なんで窓?
「こっちから行くでしょ?イリヤ」
「あぁ、そうさせてもらう。
おい!」
「は、はい!?」
どういう事だ?
こっちから、とは……ま、まさか日常的にそんな……窓から飛び降りてるの!?
「おおおおお、俺は無理ですよ!!」
というか常人には無理だ。自殺行為だ。いや、単なる自殺だよ!
「案ずるな」
「案じますよぉ……って、ええっ!?」
イリヤさんは背中を向けてその場に片膝をついた。
両腕を後ろに回し、
「背負ってやる」
そう言った。
「いいんですか!?」
「時間が無い。
乗れ」
「わかりました」
俺はそっとイリヤさんの背中に体を密着させ、首もとに両腕を回した。
イリヤさんは俺の裏ももをしっかりとホールドして立ち上がる。
なんというか、凄まじい絵面だ。
凛々しい女剣士におんぶされる、女装した(ノーメイクの)35歳男子!
ちなみに全く必要の無い追加情報をここでこっそりお教えしておくと、おんぶされている関係上、俺は足を開いているわけだが、ドレスがずり上がってほとんどパンツが丸見えなのである。
これが可愛らしい女子なら諸手を上げて「うおおおおおっ!」と歓声でも上がるのだろうが再度確認のために言っておくと、女装した(ノーメイクで脛毛比較的多め)35歳男子!
「ゆっくり、ゆっくり降りてくださいね……」
「落下速度に速いも遅いも無いだろ、我慢しろ」
イリヤさんは、窓の棧に足をかけ一気に外へと躍り出た。
王都ロメリアの景色が、すごく綺麗だ。
四方の門まで目抜通りが続いていて、そこを中心に碁盤目に配置された家々の均整と調和の取れた佇まいが……。
ゆっくり街の様子を眺められたのはほんの一瞬だけだった。
ジェットコースターが頂点に到着して、そこから急降下する寸前のあの静寂だ。
次にやって来るのは当然……。
「うううわああああぁぁぁぁ!!!」
突風が顔にかかっていたヴェールを巻き上げた。
脳天から真っ逆さまに、イリヤさんは落下を開始した。
手を、手を離すなよ!絶対離すなよおぉ!!
今回は女装シーンを書くのが楽しすぎて困った!(笑)




