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Day.4-13 ジュークの部屋にて

 サンロメリア城は複雑怪奇な造りの建物だった。外観もかなり手が込んでいる印象だったが、その内部構造はそれ以上だ。

 ジュークによれば城内には大勢の魔導師が常駐しており、来客を迎える際には幻術によって廊下の風景を一変させ、実際の殺風景な通路とは異なるように演出するらしい。

 客に対するサービス精神の発露と言えなくもないがその実、城の構造を外部の者に悟らせないというのが最大の目的だろう。


 通路には所々窪みが設けられていて、ここにこっそりと魔導師が座り術を使って風景を歪めているようだ。だから一見行き止まりのようであってもその先に通路が続いていたり、さっきみたいに延々と廊下が続いているようで実は目の前が壁だったりといったことも起こり得る。

 何も知らずこの城へ侵入するのは非常に危険だと言える。少なくとも俺のような素人では、まともに進むことも出来ないに違いない。


 いくつもの通路と階段と、外廊下と外階段を渡ってようやくジュークの部屋へとたどり着く。もはやここが何階のどの辺に当たるのか皆目見当がつかない。

 道中はすれ違う兵もほとんどおらず、廊下は静まり返っていた。


「お城ってもっとこう……騒がしい印象だったんですけどね。

 兵士がバタバタと行き交っているような」


 何気なくイリヤさんに訊いてみた。


「それはジュークが敢えて人通りの少ない場所を選んで歩いているからだ。

 サンロメリア城内には数百名の人間が居住しているが、その大半が兵士だ。

 そして兵士の寄宿舎はこちらの棟ではなく、北側になる」


 ということらしい。

 一応、ジュークが俺に配慮してくれているのだろう。この変装がバレにくいように。


 ジュークの部屋は非常に広かった。

 30畳くらいはあるだろうか。

 室内の壁際はほぼ全て本棚で埋まっていて、様々な魔術関連の書物が並んでいる。

 ソファとテーブルが部屋の中央に置かれていて、その近くに食器棚があった。

 ちょっとしたお茶会でも開けそうだ。

 窓際に寄せるようにして重厚な木製の机があり、その上に雑多な道具が置かれている。

 魔道具、というやつかな。


「とりあえず座って」


 ジュークが言う。


 俺は兜を脱いで、一息ついた。

 頭が汗でビショビショだ。

 とにかく暑かった。


 慎重に、ソファへと身を沈める。

 まだ甲冑に慣れてないから油断すると転倒しそうだ。


 イリヤさんも俺の横のソファに座った。


「飲み物は?

 紅茶か、コーヒーもあるよ」


「紅茶をもらおう」


「み、水ください……」


 喉がカラカラだ。

 見てる分にはカッコいいけど、いざ自分が装備するとプレートアーマーってこんなにしんどいんだ。

 しかも通気性とか機動性とかを度外視して防御力に全振りした構造だからとにかく不快感がすごい。


 ジュークは手早く飲み物を作って提供してくれた。

 湯を沸かすのはどうするんだろうと思ったけど、魔術で火を(おこ)していた。

 

 アンティーク調の(この世界では適当な表現ではないだろうが)カップに注がれた紅茶がイリヤさんの前に置かれ、俺にはグラスに水を注いで出してくれた。思わずがぶ飲みしてしまう。


「それで」


 自身のカップをテーブルに置き、ジュークはイリヤさんの対面に座った。


「早速なんだけど情報というのは」


 ジュークがすっと指を回すと、ひとりでに数枚の紙切れが飛んできてテーブルに広がった。


 俺とイリヤさんは、そこに書かれている文章に目を通す。

 取調書?

 兵士からの上層部の人間へ宛てられた報告書か。


「例の、ネハンの女店主の事だよ」


 マリさんか。取り調べに対して口を閉ざしていると聞いていたが。


「あの女の出自及び今日に至るまでの経歴はそのほとんどが不明。

 ま、これは予測できた事だけとね。

 ネハンの住人と王都との間には不文律がある。

 彼らが毎年一定の金額を王都へ納めることと引き換えに、帝国はネハンの住人に対してあくまで不干渉を貫いてきた。

 たとえほの暗い過去を持つ物達が寄り集まっているとしても」


 今のは俺に対する説明だろう。

 なるほど、ネハンはそういう一角なわけか。 

 王都の中にあえて懸案要素を抱え込む事を容認するほど、ネハンからの上納金は大きいのだろう。


「で、そのネハンの取りまとめ役があのマリってわけ。

 ここまではオッケー?」


「あぁ」

「オッケー!」


「で、そのマリが暗黒魔導師が襲ってきたあの日に“たまたま”自分の店の新人を売り込むために北門の兵を店に招いた」


「あぁ、やはり少し、出来すぎている気がするな」


「うん、それで結構突っ込んで探らせていたんだけど、面白い話が出てきたよ」


「ほぅ……」


 イリヤさんは紅茶を一口飲んでから身を乗り出した。

 やはりマリさんが怪しいと考えているのか。


 俺は、異世界転移してきた初日の事を思い出していた。

 客引きに連れられて店に入ってマリさんと初めて会った時、彼女から浴びせられた鋭い視線。

 あれは何だったのだろうと。


「あの女はかねてより北門の兵と顔馴染みだったらしいんだけど、あの日は特別に兵を無料でお店に招待していたらしいね。

 そしてここからが大事な事なんだけど……無料で招待する代わりに、魔導石を出来るだけたくさん譲って欲しいと持ち掛けていたようだね」


「何だと!?」


 イリヤさんの顔付きが変わった。


 魔導石か、この世界じゃ動力にもコンピューターのような演算処理にも使われる万能アイテムだ。

 それを、何故?


「兵士の口を割らせるのに手こずったよ、明らかに規律に反した行為だからね。

 ま、私の教え子達に対して嘘をつき続けるのは難しいってことだね。

 それで、兵士たちはあろうことか、魔導石を20個以上渡しちゃったらしいんだよ。

 北門の灯りとして使われていて古くなったから再精製に回される予定だったものや、破損して使えなくなったものなんかをかき集めてね」

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