Day.1-6 ギョビュルリン無残!
結構ピンチの割にはゆる~い空気を発しながらギョビュルリンの洞窟に到着だ。
俺は身動き不能のままその辺に転がされている。
イリヤさんはといえば、連中の中で一際巨体なやつの前に引っ立てられていた。
「うむ、上物」
「アニキ!」
「うむ、下がってよい」
「アニキ!」
「うむ、大義であった」
「アニキ!」
手下の発言が“アニキ!”しかない気がするがこれで通じているところを見ると彼らなりに意思疏通が成されているのだろう。
とにかくイリヤさんがピンチだ。
俺は若干の酔いが残っているから地獄耳のスキルは多少使えるが、だからといってこの状況をどうにか出来るわけもなし。
万事休す?
まだ最序盤なんですけど?
「お前達が、この一帯の失踪事件の犯人か?」
イリヤさんはなんか普通にアニキに話しかけている。この圧倒的不利な状況でも何の動揺も無いみたいだ。
「うむ、いかにも」
「人をさらってどうするつもりだ?」
「うむ、喰うのだ」
「何だと!?
貴様ら、人間との間に交わした不可侵条約を、反故にするつもりか?」
「うむ、人間よりもっと強い相手と再契約した」
「それは……一体」
「うむ、言えばギョビュルリンは滅ぼされる」
アニキは立ち上がった。2メートルは軽く越えそうな図体だ。ゴブリンもといギョビュルリンとしては異例のデカさだと思う。
イリヤさんの顎を持って顔をあげさせる。
「うむ、美しい。
興奮してくるビュル。
お前はこれからオデと……ビュル」
無骨な緑色の手がイリヤさんの喉から鎖骨へと下がり、そこを指でなぞり、更に胸を揉んだ。
おい!代われ!
「ちなみに、だ」
突如、イリヤさんは俺の方を振り向いた。
「え?」
ドキッ!
「お、俺はそんな、何も言ってませんよ?」
「はぁ?何を言っている?
ははーん、また何かよこしまなことを考えていたなこの変態!」
「滅相もございません!
俺はただイリヤさんのおっぱいのことが心配で」
「どこを心配してるんだ、馬鹿者!」
「あぁ!もっと罵倒をお願いします!
じゃなかった、すみません!!」
ん?俺もしかして自分で自分の価値を下げてる?
発言には気をつけなければ!
「はぁ……調子が狂うな。
お前はもう少し緊張感を持ったほうがいいぞ。
それはそうと、こいつらの特徴を教えてやる。
ギョビュルリンは興奮していると語尾に“ビュル”が付く!」
バリッ!!
イリヤさんはおもむろに、両手と両足の縄を千切り飛ばした。単純な膂力だけで。
ただ全身に軽く力を入れただけのようにしか見えなかったが、あえなく拘束は解かれた。
「え?」
「ビュ……」
驚き目を見開いたアニキの腕を取って、イリヤさんは思い切り背負い投げをかました。
アニキが頭から地面に叩きつけられてそこに逆さまにめり込んだ。
「えええっ!?」
「どうした?
私の顔に何かついているか?」
今までのピンチは一体何だったの?
「そうか、説明するとこいつらにバレるからあえて言わなかったんだが、私はこのくらいの強度の縄なら腕力だけで解くことが出来るんだ」
「じゃ、じゃあどうして捕まったりしたんで?」
「だからさっき案内してもらうと言っただろう?
敵の本拠地とリーダーが誰か確認しておきたかった、それだけだ。
程ほどに調子を合わせてやって情報を引き出そうとしていたのだが、不快な気分だったので一撃お見舞いしてやったわけだ」
なんという、無茶苦茶な……。
女性なのにやってることが凄く脳筋だ。
「ほら、さっさと捕まえた人間を解放しろ」
イリヤさんはギョビュルリン達に命令している。アニキの惨状を見てとても敵わないと理解した手下達はキビキビと動いて、洞窟の奥に捕まっていた人間を連れてきた。
深刻な怪我をしているものはいないようだ。イリヤさんいわく、彼らは近くの村から連れてこられた人達らしい。
それから、イリヤさんが先導して全員を村へと送り届けた。ギョビュルリン達にはイリヤさんが厳しく言い含めていたから、きっと奴らも悪さをするのは止めるだろう。
「ところで誰か」
イリヤさんが村の人達に言う。
「この男が着れそうな服をくれないだろうか」
そう、この時点でまだ、俺はイリヤさんから借りた外套しか身に付けていなかったのだ。