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Day.4-6 図書館デート

 王立図書館は外からの眺めも相当なものだったがその内部はまさに、圧巻だった。

 野球でもできそうなほど広い建物の床一面に綺麗に整列した本棚の隅々にまで並べられた本の数々。

 数千冊?いや、数万冊はありそうな蔵書。

 ドーム状の屋根に沿って備え付けられた書架にも、びっしりと本が並んでいる。


 建物は一階部分と、螺旋階段で繋がる二階部分に分かれている。

 二階は吹き抜けであり、通路から下を覗くと一階にある本棚が全部上から見渡せるわけだ。

 更に階段は続いていて、ドームの天井近くまで幾層にも渡って本棚の列が続く。

 それぞれの階には机や椅子が点在しており、誰でも好きな場所で読書をすることが出来るようだ。


「残念ながら、本の貸し出しは行っておりません」


 ディジーさんが言う。

 俺と彼女は一緒にこの建物へと入った。

 イリヤさんは建物の裏へ回り職員用の通用口から禁書の書架へ直行すると言っていたので、玄関口で分かれた。


 ディジーさんがガイド役を買って出てくれたおかげで、俺はこうして安心して王立図書館を堪能できているのである。


「それはやっぱり、貴重な本だからですか?」


 どの本の年季が入っていて、背表紙が黄ばんでいるものが多い。

 製本には羊皮紙が主として使われているようで、ページが経年劣化で丸まってきている本も散見される。


「それもありますが、ここは本来ならば外部の人間は出入りできない王の個人的な書庫だったから、というのが一番の理由です。

 ロメール王は大変な読書家で、古今東西より様々な書物を王都へ取り寄せ、それを一か所にまとめて置かれました。

 それがまさに王立図書館、我々が今いる場所です」


「これが全部、個人的なコレクション!?」


「ええ、そうです。

 王の厚意によって一般の方にも開放いますけど」


 すさまじいな。

 これまで話した印象からすると、もっとこう……ぼけーっとした人物だと思っていた。

 だがまぁ考えてみれば、一代でこれだけの帝国を打ち建てたのだから只者ではないのだろう。

 巨大帝国建立の裏には王の尋常ならざる勉強量と豊富な知識があったということか。


 二階の通路の真ん中あたりに立ち、眼下に広がる書架を眺めていると、ロメール王の脳内に閉じ込められたかのような錯覚に陥りそうだ。

 この中に、帝国の蓄える知見の全てが存在する。


「それで、今日はどういったご用件でいらっしゃったの?」


 要件?

 あぁ、そうだった。

 ぼけーっとなってたのは俺の方だったな。

 図書館の雰囲気に圧倒されていた。


 それとディジーさんがあんまりに好みなタイプだったので。

 俺の勤めていた会社の事務員の女の子に似てるんだよなぁ……。


 工場の現場勤めの派遣社員なんかはっきり言って社会の底辺だ。

 ワーキングプア、とかいうやつだ。

 社会的なステータスなんか何もない。

 というわけで自然に会社の事務員の女の子達からも空気かゴミみたいな感じに接されることになる。

 が、件の女の子だけは別で、誰彼構わず優しい笑顔で接してくれる天使みたいな子だった。


 端的に言って俺の心のオアシスである。

 

 閑話休題。


「いやぁ、それはですね」


 ディジーさんがやや首を傾げてじっと俺を見詰めている。

 ということはすなわちこの疑問に答えないでいるとずっとこうして見詰め続けてくれるという事だ。

 何とも魅力的で蠱惑的なシチュエーションである。

 が、気を取り直すべきだな俺は。

 そこまで、スローライフで世界は進んでいなのだ。


 俺が異世界転移者であるという事実は伏せられている。

 一部の人間以外は及び知らない事実として。

 なのでここはうまくはぐらかさないといけない。


「この街にやってきてまだ日が浅いので、ちょっといろいろと知っておきたいなって」


 絶妙に、ギリギリ嘘ではない答え。


「あぁ、そういうことなんですね。

 イリヤとはどういうご関係なんです?

 ずいぶん親しげでしたけど」


「馴れ初めはほんと、単なる偶然なんですけど。

 たまたま路上でぶつかった程度のものです」


 まぁぶっちゃけ、俺のまさかまさかの全裸異世界転移を目撃されたところからの仲である。

 

「へぇ、それであのイリヤがあんなに砕けた感じになるなんて。

 彼女、もっと普段はツンツンしてるんですよ。

 御存じですか?」


 それは知っている。

 初対面の人間にもかなり高圧的だし。

 でも俺への対応もぞんざいで高圧的な部類に入ると思うんだけど、ディジーさんからするとそうは映らないのかな。


 だったら、少しはイリヤさんとの信頼関係も築けてきたか。

 たった三日間の付き合いだけど、この三日間は俺にとっては濃厚過ぎた。

 昨日なんかリアルに命の危機に遭遇したし。

 

 でも不思議なことにこの世界に来てから俺は、すごくアクティブに動けている気がする。

 高所から飛び降りたり、魔物に向かっていったり、あっちの世界じゃ同じ状況になっても絶対出来なかったであろうことが、出来るようになっている。

 これはイリヤさんのおかげなのだろう。

 あの人の芯の強さが、俺に勇気を与えてくれているのだろう。


 俺自身、今ではアルコール・コーリングを使って人の役に立ちたいと考えるようになっている。

 そんな高尚なこと、思いもしなかった。

 ただ流れてくるパーツを、それこそ工場のいちパーツに過ぎない俺が検品して組んで後ろへ流すだけの単純作業を、何も考えずただやっていただけの日々。

 それが急に変化したら、心持までもがすっかり変わってしまった。


 そんな俺の道標に、あの人はなっているんだ。

 イリヤさんの持つ光が、俺を導いている。

 尊敬の念、なんだろうなこれは。


「ええ、冷たく見えますよねイリヤさんって」


 中身は、マグマのように熱い人だけど。


「あまり人を信用しない人なので、彼女。

 それと基本的には一人で動くのが好きみたいで、誰かと連れだっているなんて滅多に見れない光景ですよ」


「あぁ、やっぱりそうなんですね」


 俺との関係は、言うなれば保護者と庇護者である。

 異世界転移者という不確定要素である俺を、イリヤさんは監視する立場にある。

 監視しながら、俺の能力を用いて帝国の危機を救っている。

 逆に俺も、何にも知らない未知の世界からイリヤさんによって守られている。


 共生関係?とも言えるかもしれない。


「ねぇ、貴方イリヤのこと、好きでしょう?」


「ええっ!?」


 な、何を急に!?


 ちょっと顔を寄せてきてディジーさんが訊いてくる。

 距離近いし、質問の意図がわからんし。


「ちょちょちょちょっと、突然何を言い出すんですか!?」


「顔でわかります」


「そんなまさか」


「それと多分、イリヤも貴方のことが好きだと思いますよ」


「……っ!?」


「イリヤは鉄面皮なんで顔じゃ判断できませんけど。

 これはそう、女の勘、というやつですかね」


 ひゅう~~~~~~。

 ヤカンのお湯が沸騰する時の音、あれをイメージしてもらいたい。

 今の俺の脳内に鳴り響いたファンファーレである。

 動悸がドキドキしてきた。


「ほんとにほんとですか!?

 いいんですか!?

 俺、動いちゃっていいんですかね!!?」


 ちょこん、と。

 俺の鼻を繊細な人差し指で押さえながら、ディジーさんは微笑した。

 悪戯っぽく。


「なーんてね。

 ウブな感じがしたので、少しからかってみただけです。

 イリヤの心情なんか、読み取れませんよ私には」


「え?」


「女は怖いですよ。

 貴方も、気を付けて」


 軽く鼻をタップされた。

 くるりと踵を返し、ディジーさんは通路をゆったりと歩き出す。

 落下防止用の手すりに指を這わせながら。


「私じゃいけませんか?」


「……は?」


「私、注目されるのが好きなんです。

 貴方の視線が私以外の人に向いているのは気持ちよくありません。

 だから、私じゃいけませんかと、お尋ねしました」


「何を突然……」


 な、何なのだこの(ひと)は。


「私を好きになってください」


 ッッッ!!!!


 硬直している俺を尻目に、ディジーさんは本棚から一冊の本を抜き出した。


「この図書館の本は全て、私の頭の中に入っています。

 どこにどういう本が置いてあってどんな内容なのか。

 司書としては当然のことですけど。

 本から得た知識は剣にも盾にもなる。

 今はちょうど、剣として振るっているところです。

 貴方の胸に、刺さりましたか?」


 ぶっ刺さったよ。

 いや、マジで。


「私、称賛を浴びるのが好きなんです。

 それと、人から好かれるのも。

 最終的にはこの世界の全ての人から好かれるのが目標です。

 だから、貴方も私を好きになってくださいね」


 とんでもないことを言って、ディジーさんは満面の笑みを浮かべたのだった。


 

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[良い点] 「私、称賛を浴びるのが好きなんです。  それと、人から好かれるのも。  最終的にはこの世界の全ての人から好かれるのが目標です。  だから、貴方も私を好きになってくださいね」 なんと清々…
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