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Day.4-3 王立図書館

 午前9時半。

 天候、快晴。

 気温はそれほど高くもなく、かといって低くもない。

 実に過ごしやすい気候と言えるだろう。


 俺は例によってバッグに酒瓶を数本忍ばせて宿を出た。

 目指すは王立図書館である。

 予めシトリに王立図書館の所在地をホマスに入力しておいてもらったので、迷う事は無いだろう。


 昨日、イリヤさんとの会話の中で出てきた王立図書館という施設に、興味を惹かれた。

 魔獣デストリアについてイリヤさんは図書館の図鑑で読んだと言っていた。

 ということは、魔獣を作り出したという闇の一族についても何かしら情報が得られるかもしれない。

 それとこの世界についても、図書館であればいろいろ分かることもあるだろう。


 イリヤさんの後ろにいつまでもくっついているわけにもいくまい。

 俺も自分の足で動いて、自分の頭で考えよう。

 主体性、ってやつだ。


「もしもし、イリヤさん?」


 とか言いつつ主体性について思いを馳せた10分後には既に、電話をかけていた。

 

「何だ?」


 若干不機嫌そうに、イリヤさんが通話に応じる。


「今、サンロメリア城ですか?」


「あぁ、そうだが」


「今って忙しいですか?」


「いや、もう用は済んだ。

 というより、私には手が出せん状態だ」


「何か、あったんですか?」


「ラガドめ……いや、何でもない。

 ところでお前は何をしている?」


 ラガド?

 誰だろう。


「今から王立図書館へ行ってみようかなと」


「図書館に?

 調べ物か」


「ええ、俺もこの世界についてもっとよく知っておきたいなと」


 これは本心だ。


「なるほどな、いい心がけだ。

 王立図書館か……ちょうどいい。

 そちらで落ち合おう。

 話しておきたいことがある。

 それと場合によっては、手を借りるかもしれん」


「厄介な問題が発生しましたか?

 俺ならいつでも行けますよ。

 酒も、持ち歩いてますし」


「急ぎの用ではない。

 まずは図書館で合流だ。

 ある程度の顔馴染みにならなければ閲覧できない書架も存在する。

 私といた方が良かろう」


「あぁ、そういうことなら是非!」


「正面入口の前で待ち合わせだ。

 私はここからすぐに向かうが、いいか?」


「はい、俺もまっすぐ図書館へ向かってます」


 段取りを決めて通話を切る。

 ホマス上のマップを確認したところ、サンロメリア城から王立図書館まではそんなに遠くない。

 通りを南下すれば徒歩でも10分かかるまい。

 俺は東通りをゆっくり歩いていたが、このままではイリヤさんを待たせてしまうと思い、馬車を使うことにした。

 

 午前中の東通りには活気がある。

 軒を連ねる商店と、買い物客や観光客の群れ。

 警備兵と思しき者達。

 通りを行き交う馬車。

 

 俺は適当に一つ止めさせて王立図書館まで向かってもらうようお願いした。


「急ぎで頼みますね」


「あいよ」


 初老の御者が手綱を握る。

 馬の威勢の良いいななきと共に馬車が動き出す。


 市街を縦横無尽に走る通りを抜け、馬車が南通りへ出た。

 ここの眺めは知っている。

 初日に俺が王都ロメリアへやってきた時にくぐった門は南門。

 そして最初に通ったのが南通りであった。


 この時は空に浮かぶ無数の魔導石に驚いたものだ。

 しかし慣れてしまえばこれは日常の風景でしかない。


 ピカピカと明滅を繰り返す魔導石はこの国の通信網を支える重要なアイテムだ。

 

「王立図書館はあそこですぜ」


 御者が指差す先、乳白色の美しい石造りの建物が見えてきた。

 重厚でありながら気品を感じる建物は、三角屋根に無数の細かな彫刻が施されていて、土台を高く作ってある為に他の建物よりも頭一つ抜けていた。


 馬車が正面入り口の前に停車した。


「銀貨3枚ですぜ」


 御者が言う。

 意外に高いなと思ったが、金貨1枚が約1万円なら、銀貨3枚は3000円といったところか。

 そんなもんかもな。

 俺はさっと金を払った。


「ありがとよ、お客さん」


 ニコニコ笑って御者は馬を駆りその場から去っていった。


 さて、正面に立つと王立図書館の威容に圧倒される。

 完全に左右対称に作られ、高い屋根とそれを支えるやや丸みを帯びたいくつもの柱が聳える。

 これがいわば門であり、図書館はその奥に設えてある。


 ドーム状の屋根は全面石造りだ。

 そのなだらかなカーブを描く建築技術は相当のものであろう。

 古代ギリシャの世界にタイムスリップしたかのような錯覚。

 しかしここは異世界。

 魔法も、魔物もいる世界なのだ。


「遅かったな」


 背後から声が掛けられる。

 振り返ると案の定、そこにイリヤさんが立っていた。

 やはり城から向かったイリヤさんの方が早かったか。


「すみません」


「あの馬車に銀貨3枚も払ったのか?」


「え?」


「ふっ、この街の事をよく知らない人間だと見くびられたようだな。

 普通なら東門から南門までの移動でも銀貨1枚で充分なところだ。

 観光客か何かだと、足下を見られたのだろう」


「ええー!?

 マジですか!」


 俗にいうボッタクリだ。

 こんな異世界でもあるんだなぁ、などと感心している場合じゃない。

 おいおい、大損じゃねぇか……。


「この街には商魂逞しい者が多いからな、以後、気を付けるといい」


「ぐぬぬ……はい」


 悔しいが、ぐぬぬするしかない。

 俺もまだまだこの世界じゃど素人だ。

 親切な者ばかりじゃない。

 むしろ、異世界はなんだか俺にハードモードを強いてくる。


「ところで、立ち話もなんだ。

 どこかに座り、話すとしよう」


 イリヤさんが提案してきた。

 俺はてっきりすぐに図書館へ入るのかと思っていたが。


「館内は静かすぎる。

 それに音がよく響くようになっている。

 秘密の会話には不向きだ」


 と言われてなるほどと思った。

 図書館は基本的に静かだよな。

 そしてイリヤさんの話というのが、あまり人に聞かれたくない類のものだという事もわかった。

 城内で何かが、起きているのだろう。

 俺のスキルが必要になってくる何かが。


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