Day.4-2 ロメール帝国の情勢
「ううーむ、少し調整が甘いかー」
独り言を言いながらカードを並べている王様。
子供みたいなとこあるよなぁ、この人。
まぁよく言えば、気持ちが若いというか。
俺だったら年を取って若者と一緒にカードゲームしようとか思わないだろうし。
「あのー、ちょっといいです?」
恐る恐る、声をかける。
「あぁ、何じゃ?
……ええっと、おぬしを何と呼べばいいのじゃな?」
「あぁ、偽名ですよね。
ちょっとまだ考えてなかったです」
キアヌはさすがに適当過ぎたからな。
てか偽名を名乗るのってなんか恥ずかしかったな。
「ならば客人、と呼ぶがよろしいかの?」
「それでいいです。
ほんとすいません、めんどくさい名前してて」
「うむうむ、気にするでないぞ。
そなたの世界では普通の名前なのじゃろうて。
それで、何用かな?」
カードを揃えてひとまとめにして、机の上に置きながら王様は言った。
本腰入れて話を聞いてくれるみたいだ。
「王様の今後の去就について、聞いておきたいなと」
いつまでこの宿で身を隠し続けるのか。
そろそろ城の方では王の不在で混乱が生じている頃だと思うが。
「そうじゃなぁ……これといって特に考えておらんかったなぁ。
……って、冗談じゃよ冗談!
ほっほ、そんな顔するでないわ」
考えてないと聞いた瞬間、露骨になんだこの爺さんみたいな顔をしてしまった。
これで本当に何も考えてなかったら激しく突っ込んでたところだ。
「現在のロメール帝国の政治情勢は少し複雑での。
ワシが存命中は当然このワシに意思決定権があるわけじゃが、次代を担う者が未だ決まっておらんのじゃ。
次王の候補者はワシの二人の息子じゃが、二人ともまだ幼く政治の世界に立つには頼りない。
必然的に誰か補佐をする者が必要になってくるのじゃが、次王が一人前になるまでの間はこの補佐官が政治の実権を握ることになる。
この補佐官の任を巡り、3人の軍部大将が水面下で謀略戦を繰り広げている、というわけじゃ」
「へぇ……それはちょっと複雑ですね。
で、何歳なんですか息子さんたちは」
「上のソラリオが14、下のロクスが12じゃ。
それぞれ英才教育によって庶民よりは物事を知っておるが、政治の世界ではまだまだ半人前以下よ」
おお、若い。
ということは王様がかなり高齢の時に生まれた子ということになるか。
「ワシが死ねば、軍部の三大将が中心となって新たな王を決定することになる。
今まさに、ワシが行方不明であるからその段取りが進行していると考えて間違いはない。
問題は、どちらの息子を次代の王として擁立するか、そして三大将のうち誰が補佐官を務めるのか」
「そんな重大な場面で、王様が身を隠したままでいいんですか!?」
「ほっほ、むしろ都合がよいではないか。
身内の中に裏切り者がいるのなら、この混乱に乗じて必ず何かしら策を講じてくるはず。
国家の首脳部が慌ただしく動いている今こそ、敵の尻尾も掴みやすくなるというもの。
イリヤとジュークが城内で敵を炙り出してくれるじゃろう」
そうか、なるほど。
確かに王様の言う事は一理あるかもしれない。
だが城内にいるであろう敵は、王様が死んでいないことを知っているのか。
そこが問題になってくる。
暗黒魔導師リュケオンが王様の帰路を襲撃した時、王様を殺し損ねて取り逃がしたことを城内の裏切り者に伝達しているのか否か。
それによって敵の動き方も変わってくるはず。
裏切り者以外の人間は、さすがにここまで王様の行方が知れないとなると、死んだものと判断する可能性は高い。
対して裏切り者が王様の生存を知っているのなら、独自の動きを見せてくるかもしれない。
それがどんな動きになるのか、予想は難しいが。
これはやはり、俺が直接サンロメリア城に乗り込んで情報収集する必要があるか。
アルコール・コーリングを駆使すれば、誰も知り得ない情報を獲得できるかもしれない。
「ところで賢人会議については、どうするおつもりですか?」
ここも、確認しておきたい事項だ。
他の転移者について知っておきたいのもあるが、賢人会議に託けて堂々と城内に入れるのがデカい。
「おぬしの存在はまだ伏せられておるじゃろうから、ワシが帰らぬ限り会議が開かれることはないじゃろう。
あるいはイリヤが、その時機を決定してくれるかもしれんの」
「イリヤさんが……」
「あれは聡い女じゃ」
「ええ、俺もそう思いますよ」
「今まさに城内でいろいろと探っておるじゃろうて、ここにイリヤが戻ってきたらその時に、今後の動きについては決めることにしようではないか」
「わかりました」
王様は、しばらくここに身を潜めているつもりのようだ。
それならそれでいい。
俺は俺で、調べてみることにしよう。
「お待たせしました!
おいしい朝ごはんが出来ましたよー!」
シトリがこんがり焼けたトーストを持ってきてくれた。
その香ばしいにおいが俺の胃を刺激する。
急速に、腹が減ってきた。
「おお、旨そうだな!」
何をするにもまずは腹ごしらえだ。
トーストを食べたら、いよいよ行動を開始するとしよう。
最初に向かう場所を、俺はもう決めている。
噛り付いたトーストからクリスピーな音が鳴って、口中に小麦の味わいが広がった。




