Day.4-1 謎のカードゲーム
俺が目を覚ました時、既に外は明るかった。ホマスを見る。現在時刻午前8時。
嫌な夢を見た気がするがその内容までは思い出せない。多分、昨日の事が心に引っ掛かっているんだろう。
誰かを救おうとする行為には、相応に責任が伴う。親切心から何気なく行った行動によって相手を逆に傷つけることもある。
俺の能力は確かに多くの人間の命を救う事が出来るかもしれない。しかし、だからといって力を過信してしまわないように自省を常にしておく必要がある。
起き上がり、布団をたたんで、部屋を出る。廊下は静かだった。朝の仕事を手伝えとシトリが部屋に侵入してくることもなかった。
気を使わせてしまったかな。ふと、思った。
昨晩、宿へ戻ってきた時には既に深夜だった。シトリはわざわざ起きて待ってくれていた。温かな飲み物を出してくれて、それで俺とイリヤさんは一息ついてからすぐに、就寝した。
あれだけ跳んで走って動きまわったにも関わらず、筋肉痛にはなっていない。少なからず、異世界転移の際に肉体も強化されているんだ。
レベル99というのがこの世界では決して高い数字じゃないのは自明だが、それでも普通に暮らす分には充分な値ではあるという事か。
一階へ降りて食堂へ向かう。朝のこの時間、だいたいシトリはここにいる。昨日は俺とイリヤさんの帰りが遅くなったので、シトリの就寝時間もそれに伴い普段よりいくらかずれ込んでしまったことだろう。
シトリがもしまだ寝ているようなら、台所で何か適当なものを勝手に調理して頂くとしよう。
しかしやけに静かだ。
イリヤさんは城へ既に出掛けたのだろうが、マスキュラさんや王様の声も聞こえない。また散歩かな?でももう日が上っているし、あまり目立つのは危険では?
食堂の引き戸を開ける。
無人ではなかった。
机を挟んで座る二人の人影。
シトリと、王様だ。
二人ともすごく真剣な顔をして机を睨んでいた。
いや、机の上に置かれている物達を、だ。
一見するとタロットカードのようなものが、机の上に広げられている。
占いの類いか?
いや、恐らく違う。
シトリと王様の手にはそれぞれ数枚のカードが握られている。
そして二人とも自分の目の前にカードを置き、唸ったり、腕を組んで考え込んだりしている。
「あっ、お兄さんおはようございます!」
「やぁ、シトリ」
「おはよう、若者よ」
「おはようございます、王様」
双方とも、俺の顔を見ずに挨拶をしてきた。カード達を眺める目が据わっている。
あぁなるほど、だいたい事情はわかってきた。対戦中なのか。あれはカードゲームだな。
「朝御飯ですか?
ちょっとだけ待ってくださいね。
あと5ターン以内に終わらせますんで」
「ほっほ、5ターンとな!?
ならばワシは3ターンで勝ちに行くぞい。
ほれ、特殊地形“底無し沼”じゃ!」
「げげっ!?
こんなところでそれ持ってきちゃいますぅ?
なぁんちゃって、カウンターで魔法発動“ウイニング・タイド”でコスト2以下の自軍ウォーリアーに地形効果無効を適用しますね」
「なんと!?
小癪な!」
うん、なんだか楽しそうな二人である。
どういうゲームなのかよくわからないが、遊◯王とか、マジ◯ク的なトレーディングカードゲームなのだろう。
……この世界ってカードの印刷所とかあるのかな?
今一つ世界観が定まらないんだよなぁ。
そんなこんなでそこから20分以上待って、ようやくその試合は終了した。
最後は王様が参ったをして、シトリがふんぞり返ってドヤ顔決めて締めとなった。
「さて、気持ちよく勝てたんで、朝御飯急いで作りますね」
「あぁ、頼む」
シトリはパタパタと奥へ消えて、調理を始める。
俺と王様が向かい合って座る形になった。




