表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/108

Day.3-17 魔に染まりし村

「これはこれは、お揃いで……どうした?

 村人全員で散歩する習慣でもあるのか?」


 イリヤさんは肩を上下させて言う。息が少し上がっている。

 魔獣デストリアとの戦いが長期化しているからだろう。


「王都から来た女剣士さん、あんたはちと……強すぎる。

 それにさっきの毒が、全く効いていないようじゃ」


 チャベタ村長は最早、惚けることをしていない。


「昨日の狩人にも、毒を盛ったか?」


「ええ、しっかりと飲んでいただきましたよ。

 ただし、毒で死なぬよう、ほんの少量だけね」


「なぜ毒で死んではいけない?」


「肉が不味くなるのでね」


「……何っ?」


「あれは、私達にとっては神様なのじゃ。

 神へと供物が毒まみれでは、やはり都合が悪いでしょう」


「神……だとっ!?

 あんな魔獣が!」


「貴女はどのみちここで死ぬのですから、全てお話ししておきましょう」


 村長はすっと手を上げた。

 村人の人数は20人程度、その全員が腕に黒煙を纏い、弓へと変化させイリヤさんへ照準した。

 間違いない、やはりあの魔術だ。


「はじめに言っておきます。

 見ての通り私達は人間ではない。

 いや、人間では“なくなった”者達です。

 少し、長い話になりますが……」


 俺は無言でずっとその光景を見下ろしている。

 多分だが、俺の存在もバレている。さっきからイリヤさんと大声でやり取りしていたし。

 だが彼らは俺の方へ誰かを寄越そうとはしていない。俺は戦力ではないと高を括っているのか?


 村長の話が始まった。


「かつて、まだロメール帝国が成立する前のことです。

 伝染性の疫病が大流行しました。

 それは致死性の高い病気で、今の王都一帯はその時、死の街と化したそうです。

 国王は事態を憂慮し、感染者の封じ込めを図りました。

 領土内の最果てに位置するこの村を使い、感染者達をひとまとめに監禁したのです。

 そして死体を焼却し、この稀代の疫病流行に終止符を打ちました。

 国にとっては、それで良かった。

 それで終わったことだったのです。

 しかし、しかし当のこの村は、当然の如く、押し寄せた感染者達のせいで酷いことになりました。

 ほば全ての村人が、死に絶えたのです」


 それは、恐るべき告発であった。

 だが、実際にそれは行われている。俺のいた世界でも、そういう事例は枚挙に暇がない。


 村は、それで瀕死の危機に陥ったわけだ。


「丁度その当時、村は密かに罪人を匿っていました。

 彼は魔族から伝わったという不思議な魔術を使い、村の人々を救いました。

 なぜ村人がその罪人を匿っていたのか、今となっては不明です。

 何らかの恩恵を受けていたのかもしれないし、ただ不憫に思っただけのことだったのかもしれません。

 いずれにせよ、彼によって村人は命を繋ぐことが出来ました。

 その魔術というのは……人の肉身に魔物の命を降ろす、というものでした。

 これにより、アマネク村の住人は全員が、半分人間、半分魔物の存在になりました。

 この秘密をずっと守り続け、自分達だけで生きていく中で、我らの内にある魔物の血はどんどんと濃縮されていったのです。

 そしてある時、我々は人間ではなくなった、というわけです」


「自ら進んで、人外になったというのか……」


「そうしていなければ、この村は滅びていたでしょう」


「やはりあの一族は……逃げ延びていたのか。

 お前達を魔物に変えたそいつは、どこへ行ったんだ?」


「さぁ、それはわかりません。

 しかし彼の子孫ならば、ほんの数日前までこの村に滞在していましたよ。

 この上の、そう、あの男性がいる場所にね」


 やはり、気付かれている!

 それはそうと、いたのか。

 闇の一族の者が、ここに。


「あの方は特別な魔術で、我らの神聖なる神、デストリア様を生み出されました。

 そこで私達は近隣の村の住人達を、時に自らの手で殺し、時にデストリア様の縄張りへ引き込み、デストリア様の糧としてきたのです」


「何てことだ……だがしかし、討伐依頼は何故出した!?」


「あの方が、仰られたのです。

 王都には、あの方の目的を妨げる“敵”がいると。

 そこで私は一計を案じました。

 密かに、一人ずつ、王都の腕の立つ者を消していこうと」


 それが、今回の討伐依頼の真実か。

 村人の、狂言だったのか。

 狂言にして、狂気の所業。


「昨日は1人、強そうな方に死んでいただきました。

 死体は川を流れていったのか、発見できませんでしたがね」


「そして今日、私を殺そうと」


「はい、ですのでこれから貴女にはこの場で死んでいただいて、新鮮な肉をデストリア様に食べていただこうと」


「嫌っ!」


 チコが、悲鳴を上げた。


「何の話をしてるの?

 村長さん、嘘だよね?」


「あぁ、チコや。

 お前には黙っていて悪かったね。

 お前は次に神様になる存在であるが故」


 何……?

 こいつ今、何と言った?

 神様になる、だと!


「何っ?

 どういうこと!?」


「チコや、よく聞いておくれ。

 デストリア様は長くは生きられないのじゃ。

 その代わりこの世に、たくさんの子を残される。

 そうやって、命を繋いでいくんじゃ。

 チコ、このデストリア様がお亡くなりになられたら次は、お前が神様になるんじゃよ。

 お前の、母親と同じように」


 こいつら……っ!!

 そういうことか、そういうことだったのか!

 あの魔獣は、本当にチコの母親だったということか!


 だがチコの口振りからするに、本人は知らなかったのだろう。

 それでも親子の絆のなせる技か、チコにはあの魔物が変わり果てた母親の姿であると分かったんだ。


 にしても……何ということを。

 何て、非道な事を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ