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Day.3-15 ママは魔獣

 アルコール・コーリングを展開。

 村人の動きは……まずいか、いよいよ洞窟へと迫りつつある。

 手に手に松明を携え、無言の村人たちの行進は続いている。

 

 女の子を、危険な目に遭わせられない。

 洞窟内を一目散に駆ける。


 イリヤさんの方は、初撃で決着はつかなかったようだ。

 大広間を舞台に激しい攻防が繰り広げられている。

 魔獣デストリアは傷を負わされてなお、動きが衰えていない。

 あの時せめて片目を奪ってさえいれば。


 横薙ぎの剣撃が魔獣の卵の一つを両断した。

 どろりと大量の液体を吐き出して、卵は割れた。

 中からまだ形成されている途中の魔獣らしきものが流れ出してきた。

 

「クオオオォ!!」


 それは子を殺された怒りなのか。

 魔獣の咆哮と共に強烈な嘴による突きがイリヤさんへ。

 寸前で跳んで回避。

 嘴は地面を抉り取って破片を散らす。


 場所が悪い。

 一帯は卵がランダムに配置されていて自由に動けない。

 障害物がたくさん置かれた中をイリヤさんはすり抜けながら動かなくてはならない。

 

 対するデストリアは空中からどこへでも攻撃を放つことができる。

 天井は高く、魔獣の飛行の妨げにならない。


 だが、イリヤさんは負けないだろう。

 あの人にはあの人の仕事が、そして俺にもやるべきことがある。


 女の子までの距離は近い。

 ゆっくりとした足取りでこっちへ来る。

 手には小さなランタン。

 その頼りない灯を翳しながら洞窟を進んでいる。


「おぉい!」


 俺は呼びかけた。

 女の子がビクッと硬直して立ち止まった。

 そりゃそうか、こんな洞窟の奥からまさか人の声が聞こえるなんて思わないよな。


「こっちは危険だ、外へ出ろ!」


 走りながら、俺は女の子の姿を視認する。

 まだ小学生くらいだろう。貧乏くさい藁編みの服を着ている。見るからに寒々しい。


「おい、突っ立ってる場合じゃないぞ」


 俺が近くまでやってくると、女の子は不安そうな顔をして後ずさった。

 俺が不審者に見えたか。まぁこの場では充分そう見えるか。


「だ、誰ですか?

 村の人じゃないですよね」


「王都ロメリア、わかる?」


「あ、ホマスだ!」


 俺との会話を遮って女の子は俺の右手首に装着されたホマスに反応した。


「私も欲しいなぁ~」


「後で触らせてあげるから」


「ホント!?」


「あぁ、いいよ。

 だからちょっと俺の言うこと聞いてね」


「でもママが」


「こんな洞窟にはいないよ。

 この奥はすごい危ないから、行っちゃダメだ」


「うん、知ってるよ」


「じゃあ尚更……」


「ママがいるの!」


 会話が、噛み合わない。

 イライラしてきたぞ。


「だーかーらー、いないってば」


「ううん、いるよ。

 いつもこの洞窟にいるよ。

 私、毎晩会いに行くもん」


「え?」


 毎晩、だと?

 あの魔獣に会いに行ってるとでも?

 それが本当ならこの子はなぜ襲われない?


「なぁ、教えてほしいんだけど」


「うん、なぁに?」


「ママって、人間?」


「ううん、今はね、鳥さんなの」


 間違いない。

 魔獣デストリアの事を、この子は言っている。

 ママが鳥さんとは……。


 この子は、母親をあの魔獣に食べられて少し頭がおかしくなっているんじゃないか。

 それで魔獣の事を母親が変化した存在だと思っているのでは。


 だがデストリアはこの子を襲っていない。

 どうしてだろう。


 ま、どうあれこの子は遠ざけておかなくてはいけない。

 村人達がすぐそこまで来ている。

 彼らと平和的な話し合いができるとは思えないし。

 この子が巻き添えを食らって怪我をするかもしれない。


「その鳥さんはね、悪いやつなんだよ」


「違うよ、ママは私を守ってくれるの」


「襲われないの?」


「だって、私のママなんだよ?」


「うーん、まぁいいや。

 それよりも村の人たちについて教えてくれない?」


「うん、いいよ」


「ここは暗いから外へ出ようね」


「うん、でも後でママに会いに行くからね」


「あぁ、それはご自由に」


 俺が先に立って歩きだす。

 洞窟の入り口はもう見えている。

 そこを抜けてどこかへ身を隠し、村人達を監視するつもりだった。


「ここの人たちって普段どんな仕事してるのかな?」


「えー、畑仕事だよ。

 採れた野菜は自分達で食べるの」


 自給自足の生活を送っているというわけだ。村の外の世界との関わりはほとんど無さそうだ。


「最近この村の近くで人が魔物に襲われてるの知ってる?」


「ううん、知らない。

 ママじゃないよ?

 ママは動物は襲うけど人間は襲わないもん」


 この子は、真実を知らないのだ。

 俺が“透聴”した時、デストリアの周辺には人骨も多数散らばっていた。

 食べているのだ、人間を。

 それは間違いのない事実だ。


 この子に伝えるのは酷だろうか。

 たとえ言ってもこの子はそれを信じないと思う。

 魔物を母親と呼びその無実を頑なに主張するこの子の世界は、閉ざされている。


 出口から外へ。

 新鮮な空気を吸う。


 もう西日が消えかかっている。

 空が濃い藍色に染まっている。

 夜が、遂にやってくる。


 無数の松明が揺らめきながら、ここへ向かってくる。


「どこかへ隠れないとな……っ!?」


 言った俺の頬を、高速で何かが掠めた。

 アルコール・コーリングは寸前でそれが何か認知していた。


 矢だ。

 誰かが弓を(つが)え、その一撃を放ったのだ。


 俺は気が付いたのはいいものの、反応できなかった。

 危うく、顔面に突き刺さるところだった。


「逃げろ!!」


 女の子の手を引いて洞窟内へ駆け戻る。

 外へは出れない。


 しかし弓の存在に気が付かなかったとは。

 改めてスキルを村人たちに向けてみる。

 弓の形状は……はっ、なるほどな。

 腕だ。

 村人の腕が、弓と矢に“変化”していたのか。

 どうりで直前まで俺が気づけないわけだ。


 そしてこの変化は昨日、暗黒魔導師リュケオンが操っていた屍体に施していたものと同一。

 彼女らは腕を剣に変化させられていた。

 魔族の、術なのだろう。


 何となく読めてきたぜ、このカラクリが。

 村人達が何をしようとしているのか。

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