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Day.1-4 この異世界はネーミングが独特ですね?

「異世界からやって来たとか言ってたな、貴様」


 凛とした声で女剣士が訊いてきた。呼ばれ方がさりげなく“お前”から“貴様”にランクアップしている。


「はい、左様にございます」


「ならば何かしらの特別な力を持っているのであろうな?」


「えっ!?あぁ……はい」


「見せてみろ」


「お酒……とかお持ちですか?

 酔うと使える能力なんですけど」


「はぁ?何だそれは。

 そんなものこれまで聞いたこともないぞ」


 先ほどから、何か会話に違和感を覚える。このイリヤさん、異世界転移者についてもしかして、知っている?

 だが俺の話を信じてもらえないのは、俺が単なる変態だと未だに思っているからか。またしても心外だ、そりゃ二度に渡って見せましたよ、見せ付けましたよ?でも事故なのだ、故意ではない。誤解は解いておかなくてはならない。


「実のところ、まだ能力については自分でも詳しく把握していないので……出来れば使ってみて、それで」


 それでどうなるというのか?

 て言うかおれ自身、神から与えられた能力が実際にはどういうものなのか全く分かっていない。


「ふん……まぁいい、ほら」


「あ!お酒」


「消毒用の酒だ。基本的に人間はこれを飲用しない」


 といって焼き物の徳利みたいな器に入った酒を俺に渡してくれるイリヤさん。疑ってはいるものの取り敢えず俺に弁解の機会は与えてくれるらしい。


 だが、人間が飲まない酒とか前置きされると、非常に不安だ。てか、人間以外で酒を飲む生き物って何だよ!?


「リュザードゥメィンの連中なら、喜んで飲むだろうな。

 奴等は生臭いのが大好きだからな」


「え?今何て」


 なんか、非常に難解な固有名詞が飛び出した気がしたが。


「リュザードゥメィン、だ。

 全身が鱗で覆われた、水辺を棲家とする種族の名だ」


 もしかして……リザードマン?


「ほら、早く飲め」


 急かされた。それでは、さっそく……。

 徳利の口を塞いでいたコルク状の物体を指で捻って開封し、まずにおいを嗅ぐ。


「……うへぇ!」


 魚の腐ったような臭いが、俺の鼻腔に突き刺さった。

 恐る恐る、一口飲んでみる。


「~~~~~ッッッ!!??」


 強烈だ。味は……生臭さが前面に出ていて傷んだ刺身といった感じ。端的に言って、最悪だった。そら、人間飲みませんよ。


「こっ、これはちょっと味が……ゲホッ」


「よく飲めたな。

 私なら頼まれても絶対飲まないが」


 イリヤさんは徳利を受け取って懐にしまった。


「それで、これからどうなるんだ?」


 腕組みしながら、興味深げに見つめてくるイリヤさん。これだけ整った容姿の女性にこんな長時間見つめられる経験をしたことがない俺は目線を合わせることが出来ず、腰に手を当てて考え込むふりをしつつ地面を眺めていた。


 こうして互いに無言でいると、やけに森のざわめきがうるさく聞こえる。木々の間を抜ける夜行性の動物の枯れ枝を踏む音。風が葉を擦れあわせる時に鳴るカサカサした音。声。「いるいる」「二人」「囲め」「獲物」「持っていく」「ペットのクマモン」「やられた」「先に少し摘まんじまおうぜ」「バカ」


 人の……声?


 様々な環境音の中で一際鮮明に聞こえたのは、いくつかの短い言葉でやり取りする複数人による会話だった。


 周囲を見回しても、それらしき姿はない。だが聞こえている。少しずつ、その声達はこちらへ近付いてくる。


 4人か。

 会話を聞きつつ、俺は自然にそう判断していた。


「イリヤさん」


「何だ、あんまり待たされるもんだから立ったまま寝ようかと思っていたところだ」


 器用なこと出来る人だな……。


「誰かが、こっちにやってきてます」


「本当か?」


「4人、だと思います」


「方角は?」


「あ、あっちの方です」


 我ながら滑稽な言い方だが、どっちが北かもわからんから仕方ないのである。必死に指差した先にはそこそこ険しそうな山がある。


「ふん……やはり情報は確かだったか」


「え?」


「この一帯で近頃行方不明者が続出している。

 恐らくは何らかの魔物の仕業であろうと言われていてな。

 私が今宵調査をしに赴いたわけだ」


「そういえばさっきの熊は」


「もとは単なる野性動物だ。

 何か魔道具を仕込まれたか。

 ところで、そいつらとの距離は?」


「はっきりとはわからないんですけど……多分100メートルくらいは離れているかと」


 言ってから気付いたんだが、この世界でメートルなんていう単位は通用するのか?


「メートル?よくそんな古いものを知っているな。

 ティーフに換算してくれ」


「ティ……なんて?」


「ティーフ、長さの単位だ」


「……」


 わかるわけがない!


「なるほど、通じないわけか。

 仕方が無いな」


 イリヤさんはため息一つついてそう言った。顔が整っている分、こういう時すごく冷たい表情に見えるんだよなぁ。


「案ずるな、怒っているわけではない。

 異世界人ならこちらの世界と文化が異なるのは当たり前だ」


「は、はぁ……」


「どういった魔物が迫ってきているかは、だいたい分かっている。

 集団で道具を使って獲物を狩り、動物を使役し、人をさらうとなると……」


 なんだろう……オーク?

 ゴブリン……とかかな?


「ギョビュルリンだ」


 ………………

 ………………

 この世界のモンスターどうなってんだよ!?


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