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Day.3-8 アマネク村の村長

 アマネク村からは魔物の被害が出ていない。それは奇妙な現象に思える。

 魔物が無差別に人を襲っているなら、住処から最も近い村を襲うのではないだろうか。

 魔物が狙う対象に何らかの要因があるのか、もしくはアマネク村の住人たちが魔物に襲われない方法を知っているのか。

 もし魔物に襲われない方法を知っているならなぜ、それを付近の村に教えてやらないのか。


「あの農民の言っていたことが、気になるか?」


「ええ」


 俺達は徒歩で、アマネク村へ向かっていた。もう村は目で見えている。ゆるやかな登り坂の向こう、いくつかの粗末な家々が並んでいる。

 村というより、集落といった風情だ。


 馬車は少し離れた場所で停めてきた。もし危険な事態になっても御者を巻き込まないためだ。


「村長に直接問い質してみますか?」


「いや、それは早計だろう。

 村の者達にも事情があるかもしれないし、こちらの手の内を早々に開かしてしまうのは惜しい」


 これは俺も同意見だ。俺の思い違いかもしれないが、先程の農民がアマネク村について話す時、妙にトゲのある言い方をしていた。


 “あそこの連中はよそよそしい”

 “その昔、罪人を匿っていたらしい”


 そのようなことも言っていた。

 あまり信用されていないようだった。


 だがあくまでこれはさっきの農民個人の意見で、実際のところは会ってみてから判断しなくてはならない。

 アマネク村の村長は、自分のところには被害がないにも関わらず金貨100枚などという破格で討伐依頼を出したわけだし、もしかしたら偏屈なだけで情には厚い人間かもしれない。


「直に日が暮れる。

 真っ先に村長に会いに行く」


 イリヤさんが言った。


 ロメリアを出立したのが昼を回っていたから、今はもう15時だ。ホマスは圏外のマークがついている。王都から離れると通信網が整備されていないから繋がらないようだ。イリヤさんが言っていた通りか。


 基本、イリヤさんは忙しい人だ。

 魔物の退治も今日中にさっさと終わらせようとしているみたいだ。とにかく、事を急いている印象だ。

 あるいは、昨晩の事件について気掛かりなのかもしれない。王都へ早く戻って捜査に協力したいのかも。

 ならばこっちの件は後回しにすれば良かったのに、依頼を積極的に受けちゃうのがイリヤさんの律儀なところだ。


 村長の家が村のどこにあるのかわからなかったが、最も高台にある一軒の軒先に少し背の曲がった老人が佇んでこっちを眺めていた。この人物が村長か。なんとなく村長らしい威厳がある。


「よくぞ参られた、王都の方じゃな?」


「そうだ。あなたがこの村の村長か?」


 イリヤさんが訊く。目上とはいえ容赦のない物言いだ。


「いかにも、ワシがアマネク村の長、チャベタです」


 チャベタ村長は腰を折って深々と礼をした。

 俺もそれに合わせて軽く頭を下げたが、イリヤさんは先々と歩いていく。


「チャベタ村長、まずは詳しく話を聞かせてもらおう。

 この村の被害の状況なども確認したい」


 このアマネク村からは被害が出ていないと、さっきの農民は言っていた。

 にもかかわらず、イリヤさんは村長に村の被害状況を確認したいなどと言っている。

 探りを入れているな?さては。


 イリヤさんは先ほどから村長の顔をビタッと凝視している。どんな表情の変化も見逃さないように、だ。

 村の被害状況、とイリヤさんが言った時、特に村長の表情は変わらなかったように俺には見えた。


 村長に対するイリヤさんの高圧的な態度は、わざとやっているんだな。もし村長にやましいところがあれば、それを炙り出すために。

 人間は感情的になった方がボロが出やすいものだ。


「分かりました、それではワシの家でお話ししましょう」


 チャベタ村長が先に立って歩き出す。

 立て付けの悪そうな自宅の両開きの扉をギシギシ言わせながら開く。


 土間があってその奥に居住空間が広がっている。

 なんだか日本の古き良き田舎の風景みたいだ。

 この異世界はちょいちょい和風なところがあるからなぁ。


「どうぞ、上がってくだされ」


「失礼する」


 イリヤさんはさっさと靴を脱いで畳の間に上がった。

 そうそう、イリヤさんの靴は革製のブーツだ。爪先は革の上から薄い鉄板を張り付けてある。蹴りの威力を上乗せする為と足先の安全の為だろう。


 ちなみに俺は草を編んで作った粗末なスニーカー的な履き物である。足元のファッションが疎かだが、もとより向こうにいた時も安物のスニーカーしか履いてなかったから別に違和感はない。


 俺もイリヤさんに倣って靴を脱ぎ上がらせてもらった。


「少しお待ちくだされ、お茶でも淹れて参りましょう」


 そう言って村長は奥の部屋へ引っ込んでいった。


「どうです?イリヤさん」


「何とも言えないな。

 あの村長に怪しいところは無さそうだが……」


「露骨に疑ってませんでした?」


「人を簡単に信用しないのは私の気質だ」


「俺の事は信用してくれてます?」


「さぁな」


 気のない返事で返された。これは予想通り。

 大丈夫ですよイリヤさん、ある程度信頼がなければバディに指名なんかしたりしませんよね?それくらいは、俺にも分かっている。

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