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Day.3-6 二人旅に出よう

 馬車に揺られ、俺は目的地へと旅路についていた。目指す先はもちろん、依頼書に記載されていた村である。鳥型の魔物とは……いかなる存在なのか。

 

 同行者は、今回依頼を受けた本人であるイリヤさん。

 二人だけの旅だ。

 馬車はイリヤさんが事前に2日分の金を払い借りた。馬を駆る御者(ぎょしゃ)もイリヤさんが腕のいい人を選んだ。


 脚力のある馬だけれど、決して荒々しくなく、荷台の座席に座っていても気分が悪くなることはなかった。

 

「目的の村は西門から20ディヤーの地点だ。

 それほど離れてはいないが、王都ロメリアの西側はほとんど未開拓の森が続く。

 王都から離れればホマスによる通信も不可能になるし、森には危険な生物が多い。

 油断しないようにな」


 イリヤさんは剣を手入れしながら言った。


「はい、でもAランクの依頼を受けるのに誰か戦力になりそうな人を連れてこなくて良かったんですか?」


 俺は、戦闘ではあまりに無力だ。

 それでもなお俺を同行させたのは、単純に索敵に便利だからだろう。

 アルコール・コーリングを駆使すれば魔物を取り逃がすことは無いはずだ。


 だが、昨日の狩人が簡単にやられたほどの相手だ。

 イリヤさんと言えど、単独で戦うのは危ないのではないだろうか。


「他の者は皆、やるべき事がある。

 マスキュラとシトリは宿に残って王の身を守らなければならないし、ジュークも仕事がある」


「あの異世界転移者達は?」


「あれは私の裁量で自由に使える者達ではないのだ。

 昨日は非常事態だったから強引に引っ張りだしてきただけだ。

 基本的にはサンロメリア城で監視下に置かれている者達だ」


 そうか、ならば魔物討伐には連れて行けないのか。

 あの剣士あたりがいれば相当心強いと思ったのだが。


「転移者のことが気になるか?」


「え?あぁ、はい」


「今朝、皆で話し合いをした際に賢人会議という名が出ていただろう」


「あぁ、ありましたね」


「あれは異世界転移者が新たに見つかった時に開かれる、その者の処遇についての会議のことだ。

 賢人会議、などと大層な名前がついているが要は、国の首脳部達が転移者と顔合わせをし尋問する場なのだ」


「尋問!?」


 多少物騒な響きだ。


「あぁ、敵か味方かもわからんからな。

 それに本当に異世界から来た者なのかも、はっきりさせなくてはならない。

 そのあたりがすっかり判明したなら、いよいよ他の転移者を交えての話し合いになる。

 そして会議が終了後、転移者はサンロメリア城に自室が与えられそこで暮らす許可を得られるわけだ」


 それは……(てい)の良い軟禁ではないのか。

 俺も、宿から離れて城の方へ移されるのだろうか。

 ちょっと窮屈なことになりそうな予感がする。


「心配そうな顔をするな、ある程度自由には生活できる。

 街へ出ることも可能だ。

 ただし護衛はつくがな」


「そうなんですか」


「転移者は謎多き存在だ。

 帝国にとって脅威にもなり得る連中だ。

 だから慎重に取り扱っているだけだ。

 お前は、その能力を使って国を乗っ取ろうだとか犯罪行為を働こうと考えているか?」


「いやいや、とんでもない!」


「ふっ、そこは私も信じよう。

 第一、お前には使い所の多い能力があるが戦闘能力が無い。

 何かしようったって出来るものではないからな。

 だがたとえばジャック・ホワイト……あの“剣帝(ソード・ロード)”が謀反を起こしたらどうなる?

 誰があの剣を止められる?」


 巨人を一撃で両断するほどの剣を持つ男……ジャック・ホワイト。

 恐らくはあの、剣自体が彼のスキル。

 斬撃とその衝撃波による攻撃は非常に広範囲を狙うことが出来そうだ。

 どれだけの兵を動員しても、彼を止めるのは困難だろう。

 敵には、なって欲しくない相手だ。


「考えただけでぞっとするだろう。

 だからこそ、帝国は転移者を手厚く保護している。

 彼らには味方でいてもらわなければならない」


「そう、ですね。

 きっと他にも、強い能力を持った人がいるんでしょうし」


「あぁ、女を惚れさせる能力とかな」


「っ!!?」


 おいおい、おいおいおい、何の神の仕業だよ。

 ちょっとズル過ぎやしませんかね。

 普通に考えてそんなスキル……俺がもらわなきゃダメだろ(憤怒)!


「まぁ詳しくは、賢人会議の時だ。

 全員と顔合わせすることになる。

 前にも言ったがその時までにはいい偽名を考えておくように」


 あぁ、そうそう、そうだった。

 今のままでは俺は誰彼構わず喧嘩を売ってるような状態なのだ。

 自己紹介するたびに相手に殺されそうになるかもしれない。

 

「はい、それなりの名前を考えます」


 俺が偽名を名乗ることは事前に王様にイリヤさんから進言があった。

 無用ないざこざを起こさぬ為、である。

 王様も納得していたようだ。


「ところで……」


 旅の終着点はまだ先だ。

 どうせ途中で話す内容も無くなるかもしれないし、今のうちに疑問点を氷解させておきたい。


「何だ?」


「もしかしてお酒にまつわる能力者っていません?」


「あぁ、アイツか」


 やはり、いる。

 昨日の、酒を買い占めた奴だ。

 

「実はですね……」


 と前置きしながら俺は昨日あった事をイリヤさんに話した。

 ちょうどサンロメリア城の前でイリヤさんとばったり会う直前の出来事だった。

 俺が酒を買いに行こうとしていた酒屋の品物が、誰かに全て買い占められた。

 その者はどうやら城の中にいる、“客人”のようだった。


「そうか、それは災難だったな。

 酒が手元に無ければお前の能力は発動できないからな」


 そう、その通りなのだ。

 で、今日はと言えば、イリヤさんが酒を調達してきてくれた。

 サンロメリア城にはそれこそ膨大な量の酒が貯蔵されているらしい。

 その中から適当に何本か持ってきてもらったのだ。

 1日か2日、能力を持続させるなら瓶5本くらいもあれば充分だろう。

 ま、それらを空にする前に俺が酔い潰れるだろうけど!


「その、酒を買い漁っている奴は恐らく、創造の神の祝福を受けし転移者だろう」


「創造の神……」


 なんか、位の高そうな神だな。

 酒の神や裸踊りの神よりもきっと、格上なんだろう。

 一体……酒とどんな繋がりが?


「やつの能力は少し特殊でな。

 城の連中もどうしたものかと、持て余しているみたいだ」


「何なんです?その能力って」


「一度飲んだ酒を完璧に記憶して、いつでもそれを出現させることが出来るらしい。

 つまり酒を無から作り出す能力、ということになるか」


 何の役に立つんだよ!?その能力は!!

 創造の神……えげつないな。

 明らかにスキルガチャ失敗してるじゃん、そいつ。


 と、本来ならば猛烈なツッコミを入れたいところなのだが……。

 

「ふふふ……」


「ん?何を笑っている?

 ちょっと顔が気持ち悪いぞ」


 暴言を吐かれた気がしたが気にしない。

 なるほどなるほど、だから酒を、買い占めているのか。

 レパートリーを、増やす為に。


 しかし無から酒を作り出す能力とは。

 まさに、俺にとって僥倖(ぎょうこう)

 俺のアルコール・コーリングにとって、最強のバディじゃねぇかそいつは!


「して、その転移者の名前は?」


「名前か、確か……ケイ・ザ・ウェストといったか」


 ふーん、どっかで聞いた名前だね。



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