Day.3-5 Aランクの依頼書
「北門の兵士を接待していた店と妨害装置があった店は、同じなのです。
マリ、という女店主が切り盛りしている店でした」
そうか、それでマスキュラさん、いやな顔を。
マリさんとマスキュラさんは顔見知りだから。
そういえば俺が気を失った後、あの二人どうなったんだろう。
「このマリという女店主が何らかの事情を知っている可能性がある為、現在サンロメリア城へ連行して取り調べを行っています」
「ふむふむ」
「ところでマスキュラ」
イリヤさんが、話題を振った。
マスキュラさんはちょっと驚いた風だったが、すぐに観念したかのように真顔に戻った。
「あの店の2階、一番奥の部屋がどういう場所か、知っているだろ?」
「……上得意様用の、特別室だよ」
「そうだ、だから一見の客では入れないし常連になっても一定以上の信頼を店側から得なければ、あそこは使用できないのだ」
「あぁ、お前の言うとおりだよ。
だから、何だってんだ?」
「とぼけるな、マスキュラ。
その部屋に妨害装置を仕掛けられたということは、“敵”はそこへ通されるだけの信頼関係を店主と築いていたということだ。
部屋には窓があって、いつでもそこから逃走できるようになっていた。
だから“敵”にとっては非常に都合が良かったのだ。
マスキュラ、お前はあの女店主と知り合いだろう」
「チッ、知らない仲じゃあないよ。
って、言わなきゃダメ?」
全員の視線が集まる。
ため息を、マスキュラさんがついた。
「しゃあねぇ、このままじゃ俺が疑われちまうしな。
それは俺としても本意じゃねぇし、正直に吐いちまうか。
元カノ、ですよ」
あぁ、付き合っていたのか。
そういうことか。
「ならばあの女についてある程度詳しいのだろう?
“敵”に加担している可能性はあるのか?」
イリヤさんがどんどん尋問口調になっていってる気がする。
「さぁ、どうだか。
今はそれほど親しいわけじゃないし。
ただ……あいつは面倒見がいい奴でね、困ってる人間を放っておけない性格なんだよ」
「ならば騙されて利用されている、という事は考えられるか」
「無くは無いかもだけど、俺にははっきりしたことは言えねえ。
本当に、今のあいつのことはよく知らないんだ」
「あぁ、その言葉を信じる。
いずれにしても女店主の身柄は押さえてあるから、何らかの解答は得られるだろう。
私の方からは事件に関しては以上です」
「うむ、二人とも、ご苦労であった。
それでこの後は、どうするのじゃ?」
「私は一度管理所へ行くつもりだよ。
あの子たちにも今後更なる警戒体制を敷くように言っておかないと」
ジュークが言った。
イリヤさんは懐から羊皮紙を取り出し、それを机に広げた。
「私からは……これを」
「何じゃ、狩人協会の依頼書ではないか」
「そうです。
今朝、足を運んだ際に見つけ、私が依頼を受けたのです」
「ふむふむ……Aランク、とな!?」
「最高難易度の依頼です、滅多に出るものではありません。
しかも個人依頼主からで報酬が金貨100枚。
そして何よりこの依頼の奇妙なところは……」
イリヤさんが言う前から俺には、わかった。
なぜならその依頼は昨日俺も目撃したものだから。
昨日俺と街でぶつかった狩人が持っていた依頼書、それが正にこれだ。
イリヤさんが持ってきたものと同一だ。
屈強そうなハンターの顔が目に浮かんだ。
「昨日、とある狩人が依頼を受けたにも関わらず、今日新たに同一の依頼が張り出されていたという点です」
「それはつまり……」
「お察しの通りです。
すなわち狩人は既に依頼に失敗し……ほぼ確実に死亡が確認されているということです」
Aランクの討伐依頼書。
その内容は確か……鳥型の魔物の退治、だった。