Day.3-3 名前すらハードモード
「こちらの男について始めに、説明させてください」
イリヤさんはそう切り出した。
「そうじゃイリヤ、それがワシも気になっておった。
何者なのじゃ、そのお客人は」
「まず、王様に謝罪いたします。
昨日、私はこの男のことを王様に黙っていました。
本当なら何を置いても先にお話しすべき事柄を、あえて黙っていたのです」
「ふむ、そう畏まらずともよい。
そなたにも事情があったのだろう。
ワシに話せば、面倒なことになると考えたか」
「ええ、それに丁寧にお話しする時間もありませんでした。
できれば、賢人会議まで伏せておくつもりでしたがこのような事態になってしまえば最早、隠し通すことは出来ません」
「賢人会議?」
小声でシトリに訊いてみた。
シトリは立てた人差し指を自分の唇に当てて、静かに、と合図をした。
仕方がない、後でイリヤさんに訊こう。
「この男は……異世界転移者です」
「ほぅ……何と!」
驚いたのはロメール王だけだった。他の者はもう知っている事実だ。
「私が二日前に森で拾ってきたのです。
この男の能力も今、お話しておきます」
イリヤさんの視線がまたしても俺を捉える。
俺が自分で話せ、ということか。
「はい、自分で言います。
俺の能力はアルコール・コーリングという名です。
酒を飲み、酔いが回るほどに耳が良くなる能力です」
「むむ……何じゃそれは!?」
「口で説明してもわかり辛いかもしれませんが……俺は例えば遠く離れた場所にいる人物の話し声や、遠くの物音を聞きとることが出来るのです。
それと、音の反響から周囲の地形を把握したり、特定の誰かの発する音だけを拾って追跡することもできます」
言葉で説明するなら……これくらいになるか。
「ほぅほぅ、そんなことが……便利な力ではないか、イリヤよ」
「おっしゃる通りです。
昨晩の事件においてその男は、魔導通信網に干渉していた妨害装置を発見し、私に北門から散開した6体の敵の正確な位置を伝え、他の門に巨人が出現していることもいち早く察知し教えてくれました。
これらの助力無くしては被害はもっと甚大なものになっていたでしょう」
「うむ、間違いない」
「こと索敵においてこの男の能力は極めて有用である、と私は考えます。
今後の捜査においても」
「必要になってくるであろうな。
何しろ、敵は身内にいる可能性大なのだから」
「その通りです、王様。
そして身内を疑うのなら、事は迅速に、秘密裏に進めなくてはなりません。
勘付かれてしまっては元も子もない」
「このワシにも、事実を伏せよ、ということじゃな?」
「恐れ多いことではありますが、どうかそのようにお願い申し上げます」
「うむ、ワシもそなたの意見には賛成じゃ。
早速この者を捜査に加わらせるがよい」
「ありがとうございます」
「賢人会議は本来ならばすぐにでも行うつもりじゃったが、数日遅らせようかの?」
「明日以降がよろしいかと」
「うむ、わかった。
ではこの客人のことはこれくらいとして……はて、そういえば名は何と言ったかなお客人」
「その事なんですが……」
俺は申し訳なさそうに言う。なぜ、自分の名前を話すのに申し訳なさそうにしなくちゃならん!
「ん?何じゃ」
「ちょっとあんまり、いい名前じゃないもので」
チラッとイリヤさんを見ると、険しい表情で俺を見詰めていた。
しくじるなよ、ヘマをするなよ、慎重にやれよ、そのような視線だ。
まぁさすがに俺でも気を付けて話しますよ。
相手は王様なわけだし。
「いい名前ではない?
どういうことじゃ?」
「気を悪くしないでくださいね。
どうやらこの世界だと俺の名前はすごく相手を侮辱するニュアンスを含んでいるみたいなので」
「ううーむ、回りくどいぞ。
早く言わんか」
「俺の名は、酒井雄大と言います」
「何と!?
それが本名であると?」
「本名です、すいません」
「これはこれは、確かに危険じゃ。
前置き無しでその名を名乗られたらいくら温厚なワシとて即座に首を刎ねよと兵に命令していたことじゃろうて」
このレベルなんだよなぁ……。
俺みたいなハードモードの異世界転移者、他に、いますかっていねーか、はは。