Day.2-13 妨害地点を暴き出せ!
魔導通信網が妨害されている間は、イリヤさんとのコンタクトが取れない。
何としてでも、通信網を回復させなくてはならない。
四方の門は破壊され、北門には暗黒魔導師リュケオン、残りの三方には巨大な魔物。
四面楚歌、絶体絶命の危機に見舞われている王都ロメリア。
サンロメリア城の兵は未だ、この状況に気づいていない。
頼みの綱はジュークと、イリヤさんだけ。
俺に出来ることは、魔導通信網を妨害している要因を取り除くこと。
アルコール・コーリングを使って。
空に浮かぶ無数の魔導石。
魔導通信網があの石を用いたネットワークなら、石と石の間を魔力が伝導するとき、何らかの音を発したりはしないか?
どんな微弱な音でもいい。
俺のスキルはそれを増幅し、必ず発信地を割り出すことが出来るだろう。
そして俺の耳は……それを拾った。
本当に小さな、針を柔らかなマットの上に落とした時のような、金属質の音を。
魔力が魔導石へ伝わり、それが跳ね返って別の魔導石へと伝達する。
そのリレーの時、わずかながら魔導石は音を発していた。
音は、そこにあった。
俺の推理は、当たっていた。
だったら追える。
追うことが、出来る。
俺の聴覚は瞬時に、魔導ネットワークをまるで天から俯瞰するかのようにして、今、脳内にマッピングした。
アルコール・コーリングによる超・聴覚は容易にそのイメージを処理してくれる。
音をどんどん遡る。
それらが集積する地点を、辿る。
一か所は、王都ロメリアから北部へ少し行った地点。
これは転移初日にイリヤさんが行っていた、魔導通信網管理所だろう。
そしてもう一か所。
そこから発信されている魔力は、付近の通信網を浸食して管理所からの魔力を遮断していた。
まるでネットワークを侵すウィルスのように、広がり続けている。
ここだ。
間違いない。
特定は、完了した。
そこは俺もよく知る場所。
色町、ネハンだ。
なるほど……治安がそこまで良くなくて、そこにいる者達も互いの素性をそんなに良く知らない一帯。
“敵”が潜むには極めて、好都合。
見つけたぞ。
「わかった、発見した!」
「えっ、もう!?」
そう、時間はほとんどかかっていない。
俺のスキルはきっかけさえ掴めれば一瞬にして作業の全工程を終了させることが出来る。
スキルの深度を上げれば、これだけの複雑な作業すら、数秒で終わる。
「マスキュラさーん!」
シトリは大声で呼んでいる。
ドタドタと足音が鳴って、すぐに上半身裸のマスキュラさんが出てきた。
「おいおい、どうした?
って何だありゃあ!?」
巨人の姿を見て心底驚いているようだ。
「マスキュラさん、その腹筋の傷は目立ちますんで服着てください」
俺が言う。
「おっ、そっか、悪いね」
マスキュラさんは服を取りに戻ろうとした。
その背中へ、言葉を投げかける。
「すみません、マスキュラさん……力を貸してください」
「えっ?どうしたんだい?
いくらムキムキマッチョな俺でもあの巨人は倒せないと思うよ」
「いや、そうじゃあないんです。
俺を今すぐ、連れて行ってください。
ネハンへ!」
その言葉を聞いてマスキュラさんはニヤリと笑った。
「お、お客さんもそういうの好きなタイプなんだ?
いいねぇ、じゃあ金を取ってくるから俺と一緒に行くか!」
そんな場合じゃねぇ!
ていうか、違う違う!
すごい勘違いだよ、マスキュラさん!
……俺の横でシトリのジト目が炸裂している。
いや、違いますよ?
そういうお店にあわよくば寄ってこうなんて考えてませんよ?
このシリアスな場面で!
「違うんですって!
ネハンに、この事態を招いている“敵”がいます!」