Day.1-2 全裸スタート!?
気がつくと俺は、太い木の幹に背中を預けていた。
夜だ。星空がめっちゃ綺麗だ。空気が澄んでいるからだ。
本当に、異世界に来てしまったのか!?
夢じゃないだろうな?
頬をつねってみたら痛かったのでたぶん、大丈夫だ。
結構な田舎に着いたみたいだ。さてどうする?
山道のど真ん中みたいだが、周囲に村や街などがあればいいんだが……。
いきなり飢え死にだけは勘弁願いたい。
が、よくよく考えてみればこの世界で死んだら俺はどうなってしまうのだろう?
現実世界でも死んでしまうのか?
それともゲームオーバーみたいな感じで無理矢理向こうに戻されるのだろうか?
死に戻りがあるのかどうか聞いておくんだったな……。
あ!そういや服は、どうなった!?
まさか裸のまま転移されたわけじゃないだろうな?
下半身がスースーするがまさかそんな鬼畜なことを神様がするわけはなかろう。
全裸だった。
「オーノー!!」
こんな酷な話があるか!
本当に全裸で放り出すとは!
あのクソ神め!
これで俺がこの世界で最初にしなければならないことがよくわかった。
服を、着ることだ。
「ちっ!しゃあねぇ!
歩き出すとするか」
独り言を言いながらとぼとぼ歩く。
酒がすっかり抜けていて、全裸で歩く自分が只々滑稽だ。
その辺に落ちてる葉っぱでも纏ってみるか。
ザザッ
その時、草むらから音がした。
お、誰か農民でもいるのかな?
ん、だが待てよ、こんな格好で遭遇したら多分、俺のことを変態か何かだと思うだろう。
それは心外である。隠れた方がいいだろうか。
何だかんだと思案していると、ぬっと大きな陰が起き上がってきた。
黄色く爛々と光る目は、人間のそれではなかった。
そう、ここは異世界、住んでいるのは人間だけであるはずもなく……
「ボギャー!!」
巨大な熊が草むらから飛び出して襲いかかってきた。
いきなり、いきなりこんな展開かよ!?
「ひいぃぃぃぃ!!!」
スキル!
スキル!
使わなければ、スキルを!!
何だっけ?俺のスキルは。
あぁそうだ、アルコール・コーリング。
酔えば酔うほど地獄耳!
って何の役に立つんだこの状況で!?
しかも酔ってない!!
すっ頓狂な悲鳴をあげて俺は脱兎のごとく逃げ出した。
こんな非力な異世界転移があってたまるか!
めちゃ狂暴そうな熊がすごいスピードで走ってくる。
このままでは到底逃げ切れない。
視界一杯に森が拡がるばかりで村なんか全然ない!
となれば助けを呼ぶアテもない!
「ボギャー!!」
「ひいぃぃぃぃ!!!」
「ボギャー!!」
「ひいぃぃぃぃ!!!」
「ボギャー!!」
「ひいぃぃぃぃ!!!」
と、熊が足を止めた。
俺と熊との中間地点に、音も無く何者かが立ち塞がったからだった。
「おい、そこの変態!」
凛と澄んだ声が、俺に語りかけてきた。
月光が照らす、美しいプラチナブロンドの髪。
振り向いたその顔は、この世のものとは思えないほどの美貌だった。
「え、はい?」
「こんな場所で全裸で何をしている?趣味か?」
「はい趣味です、あ、じゃなくて、すみません!説明が長くなりそうです!!」
「ボギャー!!」
熊が美貌の女性に襲い掛かる。
手に剣を握っているところからして多少は剣術を学んでいるのだろうが、熊を相手に通用するのか!?
華奢な感じに見えるが。
本来こういうのは異世界転移した俺が早速チートスキルを使ってどっかんどっかん無双する場面のはずだ。が、今の俺はあまりに非力、いや、非力過ぎる!!
熊の極太の腕が真上から女剣士を叩き潰さんとする。
あんなもの喰らったら!
「危な」
熊が腕を振り下ろし終えた時、そこに彼女の姿は無かった。
いつ移動した?俺からは全く、見えなかった。
次の瞬間、銀色の剣の刃先が熊を背後から貫き徹していた。
熊の心臓を、恐らくは刺し貫いたのだろう。
大量に胸から出血し、巨大な口元からも吐血しながら、熊はうつ伏せに倒れた。
息も乱さずそこに立っている女剣士は、静かに剣を引き抜くと俺に語りかけた。
「危なかったな、お前」
そして、俺のとある箇所を見て、心底嫌そうにそっぽを向いた。
「とりあえず、隠せ」
あ、今気づいた。
ただ呆然と事の成り行きを見守っていた俺は、“息子”を曝け出したままだったのである。
デローン、なんてね。