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Day.2-8 “酔えば酔うほど地獄耳”

 同一人物がこの世に二人、そんなのはありえない。だから、そいつは偽物だ。

 北門に到着したというその者達は……王と魔導師では、ない。


「そやつらは……恐らく魔族じゃ」


「王と警護の魔導師に成り済ましているのでしょう。

 北門の警備兵は門を通過する際に必ず顔を確認します。

 そこで別人とわかれば即座に何らかの対処をするはずです。

 魔術に対応する訓練も、彼らは受けています」


 だが、だから何だと言うのか。

 たかが門の警備兵に止められるはずがない。

 ジュークの直属の魔導師ですら、勝てなかった相手だ。


「私も今すぐに、北門へ向かいます」


「サンロメリア城の兵士たちも、すぐに動員させよ」


「いえ、それは危険だと思います。

 敵は相当の使い手……強力な魔術を相手にしては、いくら大勢の兵がいようと無意味です。

 犠牲者をいたずらに増やすだけになりましょう」


「ではそなたが単独で向かうと?」


「いえ、ジュークももう現地へ向かっています。

 私と彼女、二人ならばどうにかなりましょう。

 王様はここを絶対に動かず、私からの連絡をお待ちください」


「ううむ……わかった。

 そなたがそこまで言うのなら、任せるとしよう」


「シトリ、マスキュラ、頼むぞ」


「はい」

「あぁ」


「それとマスキュラ……治療が後回しになってしまうが、すまない」


「いいってことよ。

 それより国の一大事だぜ。

 しっかり、やってくれよ」


「無論だ」


 イリヤさんの足音がする。

 宿の引き戸が開き、イリヤさんが出てきた。


「イリヤさん!」


 声をかけるとこちらを振り向いた。


「どうだ、聞こえていたか?」


「はい、状況は確認しました。

 どこかで馬車を捕まえて急ぎましょう」


「ダメだ、馬車でのんびり向かっているほどの余裕は、ない」


「え?」


「私について来ず、お前の能力で観察していろ」


 そう言うなり、イリヤさんは跳んだ。そして近くの民家の屋根に飛び乗った。

 恐るべき跳躍力、すさまじい身体能力だ。

 さすがレベル3000だよ、人間離れしている。


 だが俺も、ここで指をくわえて見ているだけじゃないぜ。

 アルコール・コーリングで、イリヤさんやジュークよりも先に敵の情報を掴む。


 意識を、飛ばす。

 まずはイリヤさんの足音だ。

 屋根を次々と飛び移って一直線に北門へ向かっている。

 この方法なら確かに馬車より早く着くだろう。

 イリヤさんにしかできないだろうけど。


 足音の反響から、イリヤさんの見ている景色を透聴(とうちょう)する。

 遠くに聳える門が、おぼろげにわかる。

 開けた場所では音が反射する対象がないから必然的に、風景はぼやけてしまう。

 そこに大きな門がある、というくらいのざっくりした情報しかわからない。


 俺は2本目の酒を開封して喉に流し込んだ。

 アルコール・コーリングについて、酒の神ゴッド・アルコホールはこう言っていた。


 “酔えば酔うほど地獄耳”


 と。


 酔いの深度を上げれば、能力の効果も増大するはず。


 聴力が、更に増した。

 明確に、それを体感する。


 イリヤさんを追跡する聴覚の精度が上がる。

 音の反響を用いたソナー能力も、より遠くのものを検知できるようになった。


 北門の存在をはっきりと認識できる。

 ならば、北門にフォーカスを合わせ、その周辺の音を探る。


 馬車だ。

 馬の小さな(いなな)きを、今の俺の聴力は逃さない。

 城門の警備兵が一人、それに近づいていく。


 兵士は……その一人だけか。

 少ない気がするな。

 残りの者達は詰所にいるのか。


 旗が風にゆらめいている。

 模様は確認できないが、兵士はどうやらそれを見てこの馬車が帝国のものだと認識したみたいだ。

 

 馬車を取り囲むようにして4人。

 兵士がそのうちの一人と会話している。


「ロメール王の帰還だ。

 通してもらいたい」


 ぼそぼそとした声。


「通行証を見せてもらおう」


 これは兵士だ。


「そこの者達、待ちなさい」


 そして、この声がジューク。

 彼女はたった一人で、歩いて、この北門へとやってきたのか。


「アビスハウンド様!」


 兵士が一礼する。


「下がりなさい。

 その者達は……この私が“挨拶”をします」


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