Day.2-5 キナ臭い依頼
結局俺は何の依頼も受けられないままハンターギルドから外へ出た。
「まだ2時か」
ホマスの時計機能を確認する。ここまで歩いてくるのに1時間半くらいかかった。宿へは夕方には戻っておこうと思っているから、あと1時間くらい自由時間はあるのかな。
まぁ最悪馬車に乗せてもらうか。
「おい」
横手から、凛とした声がかかった。
その透明感があって気品もある声音の主に、俺はすぐ思い当たった。
「イリヤさん!?」
「こんなところで何をしている?」
イリヤさんは不審そうな顔で俺を見ていた。
「イリヤさんこそ、一体何を」
「私はサンロメリア城にいた。
新兵どもの剣術指導役なのだ」
あ、そんなこともしてるんだ。
確かにイリヤさんの剣さばき、すごいもんな。
一回しか見たことないけど。
「俺は、酒を買いに来たんですけどね」
「ならどうしてハンターギルドから出てきたんだ?」
見られてたか。
俺は素直に全てを話すことにした。
すると……
「ふん、お前くらいのレベルで魔物の討伐依頼など受けられるはずがないだろう!」
鼻で笑われた。
いや、わかってますよ、それくらい。
「盗賊退治とかくらいならいけるんじゃないかなーって」
「やめておけ、お前、ロクに防具も装備してないじゃないか」
「防具って高いんですか?」
「それなりの品質のものを着用するなら……金貨5枚は必要だな」
それだと俺の手持ち、さっそく無くなっちゃうなぁ。
「ちなみに私の防具の値段は金貨50枚だ」
「……っ!?」
何?今の、自慢!?
くそっ、なんかすごく見下されてる気がする。
「それはさておき、Aランクの依頼が出ていたとはな」
神妙な顔つきになってイリヤさんが言う。
「珍しいんですか?」
「滅多には出ないな。
そもそもそれほど危険な魔物が出現したなら通常はハンター個人には依頼しない。
帝国の正規軍が動くことになるだろう」
あぁ、そりゃそうか。考えてみれば当然のことだ。
じゃあなぜ今回は軍が動かない?
「こういう依頼の場合、たいてい裏の事情がある。
その依頼、どこからだ?」
「え?どこからって?」
「依頼主は誰だ、と訊いている。
帝国からか、それとも誰か個人か」
そこまでは……確認しなかった。
「いえ、そこまでは」
「わからんか。
ならばはっきりした事は言えないな。
だが少し、気になるな。
私はほぼ毎日城へ出入りするから帝国領内に危険な魔物が出現すれば情報は自然と耳に入ってくる。
直接依頼を受けることも多い、昨日のギョビュルリンのようにな。
それなのに、その鳥型の魔物とやらの話はまるで聞いたことがない」
「誰かが意図的に情報を伏せている?」
「そういうことになるな」
何か、キナ臭い話になってきたか。
だが俄然、興味が湧いてきたな。
prrrrr……
と、着信音が鳴った。イリヤさんが素早く自分のホマスを耳に当てる。
誰かからの電話か。
「イリヤだ。
どうした?シトリ」
電話の相手はシトリか。買い物中じゃないのかな?
もしかしてイリヤをお昼ごはんに誘うとかそういう電話かな。
が、イリヤさんの表情が妙に険しい。
「わかった。すぐにそちらへ向かう。
……大丈夫だ、あいつは今偶然にも私と一緒にいる」
俺のことか。
素早く通話を切り、イリヤさんは俺の方を向いた。
「今すぐに、宿へ戻るぞ」
「え?何かあったんですか」
「説明は、後だ」
イリヤさんは高く手を挙げ馬車のうち一つを停止させた。
「乗るぞ」
促されるままに俺は馬車にイリヤさんと乗り込んだ。
「ジュークを呼ばなくては……」
ぼそりと小声で、イリヤさんが呟く。表情が、心なしか固い。
何か……あったのか。