Day.2-4 ハンターギルド
ハンターギルドは、サンロメリア城のすぐ目と鼻の先にあった。
立派な石造りのアーチをくぐると広々としたエントランスがあって、そこら中の壁にハンターに対する依頼書が張り付けられていた。まるでアレだな、ハロー〇ークみたいな。
ハンターギルドはこの時間非常に賑わっていた。本格的な装備を身に着けているものもいれば、ほとんど丸腰の農民みたいなものもいる。それぞれが熱心に依頼書を眺めており、時折誰かがそれを剥がして受付へと持っていく。そこで書類上の手続きを行った後、仕事へと向かう流れらしい。
ざっと見たところ、依頼はランク分けされている。
一番上がAランク、一番下はEランクみたいだな。
ちなみにさっきの男が持っていた依頼書にはAランクと記載されていた。
つまり最高難易度の依頼に、あの男は挑んだわけだ。
まぁそれでも成功報酬が金貨100枚はヤバいよな。
色街で一回遊ぶのに金貨1枚なら、だいたい1万円くらいの価値ってことだろ。
100枚なら100万円相当じゃん。これはすごいことだ。
だがいくら見渡してもAランクの依頼は見つけられなかった。せいぜいがBランク止まりだ。
確かあの男の依頼書の内容は……
“王都ロメリア郊外の山村にて村人を次々と喰らう鳥型の魔物を討伐せよ”
というものだった。鳥型の魔物、というのを1体倒すだけで金貨100枚とはなかなか。
せっかく来たし俺も小遣い稼ぎに何か挑戦してみようかな。レベル99だし、Eランクくらいなら何とかなるんじゃないかな?
「すいませーん」
受付の女性に声をかけてみる。
「はい、ハンターギルドへようこそ」
「あの、初めてなんですけど」
「はい、初めてのお客様ですね。
当協会のご説明をいたしましょうか?」
「あ、是非とも!」
「お客様ホマスはお持ちですか?」
「あ、はいはい」
俺はホマスを差し出す。
受付嬢は自分のホマスを俺のものにかざし、データを送信しているようだった。
ピッと音が鳴った。
「お客様のホマスに、当協会の利用規約および利用ガイドを送信いたしました。
また、お客様の当協会用の個人識別番号も同時にお送りしましたので、今後は受付でこちらの画面を提示していただけると簡単に依頼を受けることができますよ」
「わぉ、ハイテク!」
街や人の雰囲気は中世ヨーロッパ的だけど、技術力は現代とほぼ変わらないなぁ。
「それではお客様、本日はどのようなご用件ですか?」
「ええっと、初めてなんでなにか簡単な依頼をちょっと……やってみたいなぁと」
「それでしたらEランクのものがオススメです」
「あの、俺のレベルが今のとこ99なんですけど」
「ホマスの能力値測定機能でレベル99だったのですね?」
「はい」
「お客様、大変申し訳ありませんが当協会でのお仕事の斡旋はEランクでも最低レベル150が必要です」
「ひゃ、ひゃくごじゅう!?」
「はい」
「そんなにいるんですか」
「当協会は規約により、お客様の身の安全に配慮するため規定レベルに達しないお客様にはお仕事を紹介できないことになっております」
「そ、そんなぁ~」
「ご安心くださいお客様、そういう方のためにランク設定なしのお仕事もございますよ」
「えっ?」
「例えばこれなどは……」
すっ、と依頼書を俺に向けて差し出す受付嬢。
“豪邸の庭の草むしり 報酬:銀貨1枚”
“個人商店に毎日やってくる話好きのおばあさんの相手 報酬:銅貨5枚”
“新型ホマスの発売日前日から商店前に並ぶ仕事 報酬:銀貨1枚+暖かい毛布”
いらねぇよ!雑用じゃねぇかよ!!
思わず頭を抱える。この世界、異世界転移者に厳しすぎるだろ!?いやもしかして俺だけか、俺だけなのか!?
「お気に召しませんか?」
「あのー、普通に討伐依頼は無理ですかねぇ」
「あ、だったらこれとかどうです?」
“白アリ討伐 報酬:銀貨2枚”
「害虫駆除の業者を呼べよ!」
「ひいぃ!」
っと思わず大声を出してしまった。周囲の目線が……痛い。
「すみません、もういいです」
トボトボと、ギルドを出ていこうとした。が、ふと思いとどまって受付嬢を振り返る。
「あの、最後に一ついいですか?」
「えっく……ひぐぅ……」
泣いてる……。
「……はい、ひっく……何ですか?」
「Aランクの依頼とかだと、レベルどれくらい必要なんでしょうか?」
「レベル2000くらいですかね」
到底、俺には手の届かない世界だ。
だがイリヤさんなら、依頼を受けることが出来るのか。あの人、3000とか言ってたし。
よくよく考えてみればさっき俺とぶつかった男も、Aランクの依頼書を持っていたということは最低レベル2000はあったということか。とんでもなく強い男だったんだな。
鳥型の魔物……か。一体どんなやつなんだろうな。