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Day.2-1 野菜を収穫しよう

「おはよーございまぁーす!」


「うわっ!うるせぇ!」


 耳元でいきなり声が爆発した。飛び起きたらそこにシトリが座っていた。そういやこの部屋、鍵がないんだった。侵入され放題。


「朝です、起きてください」


「ええー、まだ薄暗いじゃん」


 窓の外はうっすらと闇が明けつつあるから早朝なのだろう。枕元に置いたホマスを見る。

 けげっ、まだ6時じゃん。


「まさかもう朝御飯なの?」


 目を擦りながら訊いてみる。


「まだです」


「じゃ、もっと寝る!」


 布団にくるまろうとしたら、機先を制して跳ね除けられた。無様に畳の上をゴロゴロする俺。


「起きてください。

 朝の仕事を手伝ってもらいます!」


「嘘ー」


「ほんとです。

 イリヤさんが、ダラダラしてるようなら追い出してもいいって言ってました」


 無茶苦茶だ。だが仕方がない。宿泊代はイリヤさんに払ってもらってるし、ワガママは言えないかー。


「わかったよ、起きますよ」


 めっちゃアクビをしながら立ち上がった。こんな時間に起きるなんていつ以来だろう。


「じゃ、外の畑で待ってますね」


 さっさとシトリは部屋を出、階段を勢いよく駆け降りていった。朝っぱらから活発なやつだ。


 歩き出すと少し足元が覚束ない。酒が残っているか?

 この世界の酒は度数が強いのだろうか。もしくは異世界の者には合わないのか?

 だとするとスキルを使う上で問題になる。いい酒選びが必要だな。


 青白く滲む空と、程よく気持ちのよい風。そして静けさ。鳥が鳴く声がどこからか聞こえてくる。


 畑の方でシトリが手を振っている。


「こっちですよー!」


 いくつも土が盛り上がった列があって、そこから緑の葉っぱが顔を覗かせている。ニンジン畑のようだ。

 

 野菜達を踏まないように慎重にシトリに近付く。


「さて、お兄さん。

 見ての通り、野菜の収穫です」


「あぁ」


「二人で手分けして手っ取り早く終わらせちゃいましょう」


「でも、どうやって収穫するの?」


「え?」


「いや、俺、畑仕事未経験なんだけど」


「そんな人いるんですか!?」


 普通にいるよ!

 てか現代人なら畑仕事なんかしたことない人の方が多いだろうよ!


「いるんですか!?」


「2回聞くな!」


「そうなんだ……畑とか野菜のない世界から来たんですね……」


 そんなディストピアじゃねぇよ!


 唖然としながらもシトリは、解説を始めてくれた。


「いいですか、しっかりと腰を落として、茎の根元を持つんですよ」


 見よう見まねでやってみる。足を開いて、腰を深く落とす。この体勢が既にキツい!


 いやぁなんというか……こういう時って普通の異世界転生物だったら主人公が知識無双する場面なんだよなぁ。

 むしろ俺が何も知らなすぎるのか!?


「持ちました?」


「おうよ」


 茎をがっしりと掴む。土から少しだけオレンジ色のニンジン本体が姿を見せている。


「この野菜は抜く時にコツがいるんですよ。

 こうやって、(ねじ)りながら真上に、引っこ抜く!」


 シトリがニンジンをボコッと引き抜いた。途端に、ニンジンが叫んだ(!?)。


「キャー!」


 女の悲鳴みたいに、ニンジンが鳴く。


「うわぁ!」


 思わず、尻餅をついた。突然叫ぶなよ、野菜。


「あっはっは!

 引っ掛かりましたね」


 無様な俺の姿を笑いながら、シトリはニンジンをブラブラさせた。ニンジンに人の顔みたいな模様が浮かんでいる。ムンクの叫び的な表情をしていて、不気味だ。


「この野菜はマンドラジンと言って、すごくうるさい子なんですよ。

 でもこの鳴き声が大きい方がよりおいしいんです。

 この子も声が大きいんできっとおいしく食べられますよ」


「次から野菜が喋るときは先に言ってね……」


「え?お兄さんのいた世界の野菜は無口なんですか?」


「普通しゃべらねぇよ!」


「わぁ!……もう、いきなり大声出さないでください」


 むすっとした顔をされた。

 知識チートも何もあったもんじゃねえなぁ……。


「あ、手が止まってますよ!

 収穫収穫!」


「わかったよ、やりますよー」


 今度こそ。

 俺はマンドラジンの茎をしっかり持って一気に……あれ?抜けない。

 一気に……あれ?

 土にしっかりと埋まりすぎてるのかな?


「キャー!」

「キャー!」

「キャー!」


 シトリは次々とマンドラジンを抜いていく。手際がいい。


「あの……抜けないんですが」


「あ、厄介なのに当たりましたね。

 そのマンドラジンはきっとワガママンドラジンですよ」


「ワガママ?」


「土に根を深く下ろして絶対に引っこ抜かれないように抵抗する子のことです」


「どうすりゃいいの?」


「歌を歌ってあげましょう」


「歌ぁ!?」


「はい、歌です。

 マンドラジンの機嫌がよくなればすんなりと抜けてくれますよ」


「歌ってもいいけど、うるさい権利団体が飛んでくるよ?」


「わけわかんないこと言ってないで、さぁどうぞ!」


 その後、俺のお得意のカラオケ鉄板ソングを3連投したが、マンドラジンはうんともすんとも言わなかった。そしてさも当然のごとく、抜けない。


「よしわかった、バラードだな?バラードなんだな?」


 その後、バラード、効果なし。


 シトリは既に他のマンドラジンの収穫を終え、冷ややかな目で見守っている。


「お兄さん、そろそろ牛さんたちのお乳を搾りに行く時間です」


 催促されている。早くしろってか!?

 ええい、こうなったら……。


「ギャーー!」


 すごく野太い声を発してワガママンドラジンは抜けた。今日収穫した中で一番の大物だ。


「わぁ!すごいですね。

 これは大きい!」


「ふん、こんなもんだな」


 俺の最後の歌は、お店の閉店時間によく流れているアレである。

 すなわち、蛍の光だ。

 渋い歌が好みのニンジンだぜ全く。



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