表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/108

Day.1-14 泳がされる者

 ひ……ひどい目に遭った。詳しくは割愛するがとにかく……えらい目に遭ったのだ。体力ゲージが可視化される世界だったら多分8割くらい減ってるはずだ。


 安物買いの銭失いと言うが、たとえ倍の値段だったとしてもケチらず指名をするべきだった。

 失ったのは銭だけではない。俺の人としての大事な何かも、ゴリッと失われた気がする……。

 

 もうしばらく、このあたりには近付きたくない。さっさと買い物を済ませて帰ろう。


 さて、探し始めれば目当てのものはすぐに見つかった。三つの野菜と、香辛料屋でスクールバスの羽の粉末を買う。この羽は滋養強壮に効くらしい。


 カガイ通りには他にも俺のいた世界でもよく見るような野菜や果物がたくさん売っていた。名前は珍妙なものになっていたが。


 屋台で何かつまもうかと思ったが、その前に団子屋のおっさんとの約束を思い出す。


「そうだったそうだった、団子を分けてもらえるんだった」


 他の店で満腹になってしまうのは勿体ない。やや駆け足で道を引き返す。そういえば酒がいい感じに抜けてきて体が楽になってきた。適度に汗をかいたのが良かったのか。……ちょっと嫌なことを思い出しそうになった。回想中止。


 さっきも嗅いだいい香りが再び鼻腔をくすぐる。店が見えてきた。


「おーい、兄ちゃん」


 禿頭のおっさんが紙の袋に丁寧にくるんだ団子を俺に向けて振っている。

 なんともう用意してくれてたとは。余計な寄り道をしていたせいで遅れてしまって申し訳ない!


「わお!ありがとうございます」


 包みを受けとると、まだ温かい。


「さっきはいきなり殴っちまってほんと悪かったな。

 あのコソ泥はこの辺じゃ結構有名なやつでよ、逃げ足が早くてこれまで誰も捕まえられなかったんだ。

 たまたまあの場に警備兵が通りかかったってのも運がいいよな」


 そう、ポルハチと名乗ったあの男が逃げようとしたその目の前の路地を警備兵が二人、巡回していたのだ。それで結局のところポルハチは捕まったわけだが、そうでなければ普通に逃げられていたところだ。


「けどよ、なんで兄ちゃん酒なんか持っていったんだい?」


「あー、それはですね。

 この街についたばかりで、そのー、すごくお酒が飲みたい気分だったというか……」


 我ながら歯切れの悪い物言いだ。正直にスキルのことを話すわけにはいかない。適当にこの場を取り繕う言葉を考えなくてはならないんだけど、そんなにポンポンといい嘘が出てくるはずも無し。


「はっ、変な兄ちゃんだな。

 ま、結果的に悪人退治が出来たしよ、兄ちゃんの功績だってことで、これも持ってけ」


 さっきのと同じ酒を3本、譲ってくれた。これは有り難い。能力発動する時に絶対必要なものだからだ。


「いいんですか、こんな」


「いいってことよ。

 今後とも、ごひいきに」


「はい、また来ます!」


 いい頂き物をした。せっかくなのではやくこの団子を食べたいところなのだが、通りには座れそうなベンチなどはない。この距離なら宿に戻った方が早いか。


 宿へ向かって歩き出す。すぐに、その和風な建物が見えてきた。表に3人の人影を確認する。


 シトリの横にいるのは……イリヤさんとジュークのようだ。それぞれ特徴的な格好をしているから遠目にもよく分かる。

 打ち合わせは終了したようだな。


 と、ここで俺はささいな疑問を抱く。


 俺のような異世界からやってきた者を宿に置き去りにして、ロクに監視もつけず自由にさせておいてほんとうに良かったのだろうか。

 イリヤさんは逃亡したら地の底まで追い回すとか言っていたが、実際問題、例えば俺が悪意ある人物でスキルを使って(よこしま)な企みを実行しようとしたら、どうするつもりなのだろう。

 せめて監視の一人や二人つけるのが普通ではないか。


 まぁ、俺については問題なしとイリヤさんが個人的に判断したということかもしれないが。

 俺は悪意なんか持ち合わせていないし、スキルについての知識もまだまだ未熟だ。だからほっといても何も起こらないが少し、イリヤさんの判断は甘いような気がした。


 宿が近づくにつれ、すごく気が重くなってきた。


 すごい睨んでる人がいるんですけど。

 しかも二人。


 シトリと、イリヤさん。

 そして横でニヤニヤしているジュークの表情が邪悪だ。


「あ……今帰りました」


 そうそう、出掛ける時にシトリに酷い言葉を吐いて出てきたのだ。

 いや、ちょっと待てよ、自分の名前を名乗ることがそんなにいけないことか!?

 この世界は俺に対して厳しすぎやしないか。


「おかえりぃ~」


 邪悪なジュークが半笑いで言う。

 残りの二人は無言だ。


 日が傾き始めている。

 夕暮れ時。

 少し陰を落としたシトリとイリヤさんの顔が、こわい。


「あれ、あれあれ?

 この変な空気は何かなぁ」


 ジュークは大げさに俺と二人とを見比べてヘラヘラしている。どうせ知ってるんだろ、悪魔め。


「……お兄さん」


 シトリが感情のこもらない声で言う。


「は、はい」


「あなたの名前については、私の勘違いでした。

 まさかそんな酷い名前の方がほんとうにいるなんて」


 おい、横で吹き出すなジューク。


「けど、怒ってるのはその事じゃありません」


「……え?」


 違うの?


「あんな……汚らわしいお店に行くなんて!!」


 !?

 何っ!?

 なんでそれを!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ