Day.1-13 少し遊んでいくか!
男の指し示す先、狭い空間に多くの建物、煌びやかなネオン看板がいくつも林立し、さながら日本の歓楽街のような場所が存在していた。このネオンは実際には電飾ではなく、蓄光性の魔導石が使われているんだろう。
そりゃ表通りからは見えないはずだ。
ここは色町だ。
小さな風俗街だ。
この世界で性産業の規制がどうなっているのかは不明だが、こういった商売ができているのなら、取り締まりはそこまでキツくないのかもしれない。
「実はね」
男は身を寄せてきて俺に耳打ちした。
「さっき兄さんが金を巻き上げられてるとこ見てたんだけど、結構、持ってるよね」
お金を示すハンドサインだ。これは、こっちの世界と変わらないらしい。
てか、見られてたのか。ハイエナみたいなやつだな。
「少しぐらい、遊んじゃってもいいんじゃない?」
「おいおい、強引だなぁ」
「俺はこの界隈じゃ顔が効くからね、安くしとけるよ。
そうだな、金貨一枚ポッキリでいいや」
確か、俺は今金貨6枚は少なくとも持っていたはずだ。ここでそのうちの一枚を使ったところでそれほど懐は痛まないが……。
むむっ。
「あ、ほんとは行きたいけど、こんなとこでお金を使っちゃっていいのかなって考えてるね?
もうひと押し、して欲しそうな顔してるよね。
じゃあ、一番いいお店、ほんとうなら金貨2枚は必要なお店を紹介しちゃおうかな」
なにっ!?
半額……だと?
「とかいって、店行ったら金貨2枚取られちゃうんじゃないの?」
「いえいえ、絶対、そんなことありえません!
ささっ、まずは行ってみてから決めましょうよ」
男はそそくさと歩いていく。
紫と赤のネオンが実に毒々しく、それでいて妖しいお店に案内された。
店の看板にはすごくあられもないワードが散りばめられていたが残念、ここで言うわけにはいかない。
言えば俺はノクターン行きだ。
「あんらぁ、お客さん?」
女主人が玄関で応対してくれた。
真っ赤な襦袢を着た、実に色っぽい女性だった。
結わえた髪を豪奢なかんざしで留めていて、うなじを見せている。
「マリさん、毎度どうも!」
「あぁコモモ、あんたも昼間っからよく働くねぇ」
「他の連中は夜まで飲んだくれてっからね。
俺はこういう時間帯から動いて利益を独占さ」
「お客さん、見ない顔だねぇ。
旅のお人かい?」
「いやぁ……まぁ旅っちゃあ旅かな」
一瞬、マリさんの鋭い眼光が俺を射抜いた。
冷徹な光はしかし、すぐにどこかへと消えた。
こういった商売に特有の、客を値踏みする視線……だったのか。
にしては少し殺気立っていたような。
俺の曖昧な返事に不信感を抱いた、かな?
「お兄さん、ここはすごいんだよ。
人間の女は当然として、実はここだけの話……」
「ふむふむ」
「他の種族の女も在籍してるんだよ。
フェルフとか」
あぁ、多分エルフ、ね。
「噂じゃスクールバスもひっそりと働いてるとか働いてないとか……」
うんうん、スクールバスね。
スクールバス!?
出やがったな。
「その、スクールバスってのは」
「えっ!?知らないの?
あの超有名な魔物を。
ほら、男の精を吸い取って美貌と生命を得ているという、背中に羽の生えたあの……」
もしかして……サキュバスか!!
スクールバス=サキュバス。
わかるか!
「まぁギョビュルリンなんかもいてるみたいだけどね」
それはちょっと、勘弁願いたい。
「お客さんもしかしてコイツに金貨1枚でウチで遊べるとか言われてこなかったかい?」
「ええっと、はい。
そう言われましたけどやっぱり、無理ですよね」
ていうかなんだ俺は!?
もうすっかり行く前提で話を進めている。
客商売の上手な連中だ……すっかり手玉に取られてしまった。
ここはもう……気持ちとは裏腹に、行くしかないか。
うん、気持ちとは裏腹に、行くしかない。
「大丈夫、金貨1枚でいいよ。
その代り遊ぶ相手を選べないけど、それでもいいのかい?」
まぁ、ここまで安くなったのなら致し方なし。
「はい」
「じゃ、準備させるよ」
俺は金貨をマリさんに渡して廊下を進んだ。
廊下の左右に襖が並んでいる。
それぞれの部屋がいわばプレイルームというわけか。
声が、漏れ聞こえてくる。
能力を駆使しなくても、防音性の低い襖越しに、あぁー!
あの客引きめ、なかなかの敏腕だ。
俺のお相手は突き当りの部屋で待っているようだ。
そういえば、人間の女がつくのだろうか。
それともフェルフやスクールバスなんかがいるのだろうか。
ちょっと、これは好奇心をそそられる。
あれだ、学術的興味というやつだ。
いやらしい感じの興味じゃあないんだぜ。
でも、ギョビュルリンもいるんだよな。
それは、嫌だな。
まぁ普通の相手ならとりあえずOK!
意気揚々と襖を開ける。
タァーン
「ようこそお待ちしておりましたお客様……ビュル」




