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Day.1-11 これが俺のスキル!

 すごく痛む胸を抱えながら俺の買い物はスタートした。

 なんだろう、とても悲しい。


 神よ、どうして俺にこんな酷な仕打ちを。

 何が善行だ、何が神総選挙だ!

 こんなことなら裸踊りの神のスキルが欲しかったなぁ……やっぱりいらないや。


 確かカガイ通りと言っていたか。

 ロメール帝国の王都ロメリアは、サンロメリア城を中心点として東西南北を走る4つの大通りとそこから直線的に伸びるいくつもの中通りから構成されているらしい。

 今、俺は東通りの端からサンロメリア城へ向かって歩いているからそのうちカガイ通りにぶつかるだろう。

 通りの入り口には大きめの木板で看板が上がっており、その通りの名前が記されている。これを目印に探せばいいわけだ。


「うまいようまいよー、お団子うまいよー」


 香ばしい醤油のにおいが鼻を突く。みたらし団子屋だ。こんな異世界にもあったんだ、すげぇ。

 そういえば今はものすごく空腹だ。こっちの世界に来てからほぼ飲まず食わずだったし。

 少し、腹ごしらえしていくか。


「お団子ひとつくださーい」


 俺は店に近づいてゆく。

 その時、背後から誰かが俺にぶつかってきた。


「おっと!ごめんよ兄ちゃん」

 

 髭を生やした中年太りの男が、すまさそうに頭を掻いている。


「あぁ、別にかまいませんよ」


 俺はさほど気にも留めず、許した。何より今は空腹で一刻も早く団子が食いたい。

 男は小走りに去っていく。何か急ぎの用があったんだろう。それで俺にぶつかってしまったに違いない。


 と、俺は腰に提げていた金貨の入った袋が無くなっていることにこの時、気づく。

 団子が……買えない!!じゃなかった、金を、()られた!!


 あの、ぶつかってきた男だ。始めから窃盗目的だったのか。

 クソッ!

 心の中で悪態をつく。

 迂闊だった、俺はこの世界の治安がどの程度なのかなんて全く考えずに、金をチラつかせて街を歩いていたのだ。

 ああいう物盗りからしたらいいカモだったろう。


 咄嗟に、俺は団子屋の軒先に並べてある瓶を手に取った。瓶口を封している紙を破る。


「あっ、ちょっとお客さん!?」


「ごめん!絶対後で金は払うから!!」


 俺はその酒をぶん取って駆けだした。これじゃあ俺が盗人じゃないか。だが仕方ない。背に腹は代えられない。


 どの道、俺はこの買い物の時に試そうと思っていたのだ。


 そう、この俺に与えられたスキル━━アルコール・コーリング。

 酔えば酔うほど地獄耳になるというそのスキルの、使い方を。


 走りながら酒をぐい、と呷った。

 一気に喉を、アルコールが駆け下りてゆく。

 一気飲みが一番、酔いの廻りが早い。


 最初に能力を発動した時、俺には周囲の音がすごくクリアに聞こえた気がした。

 森のざわめきも、ギョビュルリン達の会話も。

 そして様々な音の中から俺は選択的に、ギョビュルリンの会話だけに聴力を集中させることが出来た。


 音は、空間を伝わる波だ。

 その伝達速度は光と比べればかなり遅い。

 だがあの時、俺の耳は確かに、遠くにいるギョビュルリン達の会話をリアルタイムに聞いていた。


 俺の能力はつまり、聴覚そのものを特定の対象のすぐ近くへ飛ばす能力、ということだ。

 問題は、対象をどれだけ正確に選択できるのか、というところだ。

 それを試すには、大勢の人がいる街中で実験するのがいいだろうと俺は考えていた。


 酒が、空腹&疲れた肉体へ染み渡ってゆく。そして全力疾走が更に酔いを加速させる。

 それに伴い、いよいよ、俺の耳は音を捉えはじめた。


 街を行き交う人々の会話が洪水のように俺の鼓膜に流れ込む。これは単なるノイズだ。俺が集中すべきはさっきの盗人の発する足音。聴こえる、理解できる。その音が流れてゆく方向、距離。男の心臓の鼓動までも、意識すれば聴こえる。


 アルコール・コーリングは、その男の行動を完全に捕捉した。それに伴い余計な音はどんどん小さくなってゆく。

 この能力は、俺の意識によって極めて高い精度で対象を選び出すことが可能なんだ。

 これは……使える!!


 男の足音が止まった。空間に反響する音から、俺にはその場所のざっくりとした景色まで予想出来る。

 細い路地の、間。

 男は一息ついて、布袋の結び目を解こうとしている。中身を確認するつもりだろう。


 俺のいる場所からそう遠くへは行っていない。すぐに、追いつける。


 シュルリと紐が解ける音。男の息を呑む、声。 

「意外と……入ってんじゃねぇかぁ」

 男の呟き。


 全て、聴こえる。

 ならば決して、逃がしはしない。


 俺は速度を上げる。

 もうその路地を曲がれば、すぐそこに、男がいる。


「ひっひっひ……一儲け一儲け」


 男が下卑(げび)た笑い声を上げている。そこへ、


「何が、一儲けだ、バカ……」


 颯爽と、千鳥足で俺が登場した。

 ヤバ……酒が……しんどい。


「おわっ!お前……なんでここが」


「俺から……ゼェ……逃げら……ゼェゼェ……」


 しゃべるのが、辛い。

 てかこの世界の酒、度数高くない?


「おいおい、このコソ泥界のエース、ポルハチ様から金を取り返そうなんて無謀な男だねお前」


「返せ……」


「取ってみな、ホレ、ホレ」

 

 ポルハチは袋をお手玉して余裕の表情をしている。

 掴みかかりたいが、今にも地面に倒れ込みそう……。


「だ、誰かぁー、誰かぁー!」


 必死で、大きな声を出してみた。


 表通りから何人か顔を覗かせる。


「あ!」

 

 誰かの声がした。

 この路地裏からじゃ逆光になって相手の顔が見えない。


「このコソ泥ッ!!」


 そうそう、わかってくれたか!

 だったらさっさとあの男を捕まえてくれ!


 俺は祈るような気持ちで声のする方へ手を伸ばし……


 ボカッ


 思いっきり殴られてダウンした。


 え?

 なんで!?


「ようやく捕まえたぞ、酒泥棒!!」


 胸倉を掴んできたのは、さっきの団子屋の店主だった。


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